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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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29/52

29.

 翌朝。

 窓から差し込む柔らかな朝日が部屋を照らしていた。


「ん……」


 セリアはゆっくりと目を開ける。

 ぼんやりと天井を見つめ、見慣れた部屋を眺めた。


「……あ」


 自分の部屋だった。


「そうだ……お家に帰ってきてたんだった」


 昨日の出来事を思い出し、自然と頬が緩んだ。

 ゆっくりと体を起こし、時計に目を向けた。


「えっ?」


 思わず声が漏れる。


「寝坊しちゃった!」


 いつもより遅い時間に気づき、慌てて身支度を整えた。


「おはようございます!」


 食堂に入ると、母が優しく微笑む。


「おはよう、セリア」


 テーブルには朝食が並び、使用人たちもそれぞれ準備を進めていた。

 セリアは少し頬を膨らませる。


「起こしてくれればよかったのに……」


 その一言に、食堂の空気が和らぐ。

 料理長も侍女たちも、思わず微笑んでいた。

 母は紅茶を口に運びながら笑う。


「無理はしないって約束したでしょう? ぐっすり眠っていたから、そのまま寝かせてあげたのよ」

「そうでした……」


 照れたように笑いながら席に着く。

 体に優しい朝食をゆっくりと味わった。

 食べ終える頃、セリアが母に声をかける。


「療養院に戻る前に、お庭を散歩してもいいですか」

「もちろんよ」


 母は嬉しそうに頷いた。


「今日はお天気もいいものね」

「はい」


 朝食のあと、母と腕を組んで庭をゆっくり歩いた。

 花壇には色とりどりの花が咲き、一年前と変わらない景色がセリアを迎えてくれた。


◇◇◇


 昼過ぎ。

 セリアは療養院に戻ってきた。

 病室に荷物を置くと、ほどなくして主治医が姿を見せる。


「お帰りなさい、セリアさん」

「ただいま戻りました」


 主治医はカルテを手に取りながら穏やかに微笑んだ。


「ご自宅では楽しめましたか?」

「はい、とても」


 セリアは迷うことなく答える。


「久しぶりに家族とゆっくり過ごせましたし、お料理もとても美味しかったです」


 その笑顔を見て、主治医も安心したように頷いた。


「それは何よりです。では、診察を始めましょう」


 セリアは小さく頷き、椅子に腰を下ろした。

 診察の結果、少し疲れが見られるものの、体調に問題はなかった。


◇◇◇


 その後、セリアは病室で本を読んでいた。


「失礼します」

「イクス様!」


 部屋に入ってきたイクスに、セリアはぱっと顔を明るくした。


「こんにちは」

「こんにちは。お邪魔します」


 イクスは椅子に腰を下ろした。


「外泊されたと聞いたので、様子を見に来ました」

「ありがとうございます」


 セリアは本を閉じ、嬉しそうに微笑んだ。


「ご自宅ではゆっくりできましたか?」

「はい。久しぶりに家族と過ごせて、とても楽しかったです」

「それはよかったです」


 イクスも安心したように笑った。


「体調はいかがですか?」

「少し疲れましたけど、今日はもう大丈夫です」

「なら安心しました」


 そう言って頷くと、何気ない口調で続けた。


「ゼイン様も気にしていましたよ」

「魔王様が……ですか?」


 思わず聞き返す。


「ええ。昨日、オーレリア様にも体調を確認していました」


 セリアの頬が少し赤くなる。


「そ、そうなんですね……」


 イクスはその反応を見て、小さく笑った。


「あの……きっとすごくお忙しいですよね。なのに治療に来ていただいて……何かお礼がしたいんです」

「ゼイン様にですか?」


 イクスは苦笑する。


「たぶん、『気にするな』で終わりですよ」

「やっぱり、そうですよね……」


 少し残念そうに肩を落とすセリア。

 イクスは少し考えてから顔をあげた。


「でも、美味しい紅茶なんかは喜ぶと思いますよ」

「紅茶ですか?」

「はい。ゼイン様、仕事ばかりで休憩をほとんど取らないんです」

「そうなんですか?」

「僕が何度声を掛けても、『後で』って言うんですよ」


 セリアは少し心配そうな表情になる。


「ちゃんと休まないと駄目ですよね」

「本当にその通りです」


 イクスは苦笑しながら頷いた。


「だから、紅茶をいただいたら、僕がきちんと休憩を取らせますよ」


 その言葉に、セリアはくすっと笑った。


「お願いします」


 少し話した後、セリアはふと思い出したように尋ねた。


「ゼイン様は、お仕事中もあんな感じなんですか?」

「あんな感じ?」

「その……あまりお話ししないというか」

「ああ、そうですね。基本的に無口です。でも困っている人は放っておけませんし、自分には厳しいのに、人にはちゃんと休めって言うんですよ」

「……ゼイン様らしいですね」

「ええ」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 しばらくして、セリアが少し首を傾げる。


「魔塔って、どんなところなんですか?」

「急にどうしました?」

「本に出てくる魔塔って、黒くて怪しい建物ばかりで……」

「怪しい?」

「雷が落ちていたり、怖い魔術師ばかりいたり……」


 一瞬きょとんとしたイクスは、思わず吹き出した。


「あははっ! どんなイメージなんですか、それ!」


 セリアは少し恥ずかしそうに俯く。


「本だと、そんな感じだったので……」

「全然違いますよ」


 イクスは笑いながら首を振る。


「確かに研究熱心な人は多いですけど、普通に仕事をしているだけです」

「そうなんですね」

「元気になって外出できるようになったら、ぜひ遊びに来てください」

「私がですか? でも、ご迷惑じゃありませんか?

「大丈夫ですよ。見学くらいなら、きっと許してくれますよ」


 セリアは少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。


「その日を楽しみにしています」

「約束ですよ」

「はい」


 本の中でしか知らなかった魔塔へ、自分の足で行ける日が来るかもしれない。

 そう考えるだけで、セリアの胸は期待に弾んだ。

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