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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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26/52

26.

 翌朝。

 セリアはいつもより早く目を覚ました。

 窓から差し込む朝日が部屋を優しく照らしている。


「いいお天気……」


 窓の外を見ると、青空がどこまでも広がっていた。

 ふと、屋敷の庭園が頭に浮かぶ。

 療養院ほど広くはないけれど、小さな花壇があり、季節ごとの花が咲く庭。

 天気の良い日には、母とお茶を飲んだこともあった。


(早く帰りたいな)


 そんなことを考えていると、扉が優しく叩かれた。


「セリア、起きている?」

「はい、お母様」


 母が部屋に入ってくる。


「今日は診察の日ね」

「はい」


 自然と笑みがこぼれた。

 二人は一緒に診察室に向かった。

 診察を終えた主治医は、カルテを閉じて穏やかに微笑んだ。


「熱もありませんし、体調も安定しています」


 セリアは思わず背筋を伸ばす。


「予定どおり、本日から一泊の外泊を許可します」

「本当ですか!」


 ぱっと表情が明るくなる。

 主治医は頷いた。


「ただし、決して無理はしないでください。少しでも体調に異変を感じたら、すぐに療養院に戻ること。約束ですよ」

「はい!」


 元気よく返事をするセリアを見て、母もほっとしたように笑った。

 荷物をまとめ、療養院を後にする。


 馬車がゆっくりと王都の街を進んでいく。

 窓の外には、多くの人が行き交っていた。

 買い物を楽しむ人。

 店先に並ぶ色とりどりの果物や花。

 石畳を駆け回る子どもたちの笑い声。

 いつも通りの日常の景色も、セリアにはどこか新鮮に映る。


「町を見るのも久しぶりです」

「そうね」


 母も優しく微笑んだ。

 やがて見慣れた屋敷が見えてくる。

 馬車が止まると、玄関には使用人たちが並んで待っていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 一斉に頭を下げる。


「ただいま帰りました」


 セリアは嬉しそうに微笑んだ。

 その中から料理長が一歩前に出る。


「お元気そうなお姿を拝見できて安心いたしました。今日は腕によりをかけております」

「ありがとうございます」


 思わず笑みがこぼれる。

 母とともに屋敷に入り、久しぶりに自分の部屋の扉を開けた。


「わあ……」


 思わず声が漏れる。

 本棚も、机も、窓辺に置かれた小さな花瓶も。

 一年前と何も変わっていなかった。

 毎日手入れをしてくれていたのだろう。 

 部屋には埃一つなく、今も大切に守られていたことが伝わってきた。

 そっとベッドに腰掛ける。

 柔らかな感触に身を預けると、自然と力が抜けた。


「やっぱり、お家は落ち着きますね」


 母が優しく微笑む。


「一泊だけでも、ゆっくり過ごしましょう」

「はい」


 返事をしたものの、ふと表情が曇る。

 今日の午後には、公爵邸に向かう。

 フレディ様と話をするために。


(ちゃんと……言えるかな)


 胸の奥が少しだけざわついた。

 昼食は胃に負担の少ないものを少しだけいただいた。

 久しぶりに料理長の味を楽しみながら、ゆっくりと食事を終えた。

 食後、お茶を飲みながら母が笑う。


「夜は料理長が張り切っているそうよ。セリアの好きなお料理をたくさん用意しているんですって」

「楽しみです」

「ええ。それに、お父様も今日は早く帰ってくるそうよ。セリアが帰ってくるのを、とても楽しみにしていたもの」


 その言葉に、自然と笑みが浮かぶ。


「……嬉しいです。早くみんなでご飯を食べたいです」


 久しぶりの我が家で過ごす時間は、驚くほど穏やかで、あっという間に過ぎていった。

 しばらくすると、屋敷の外から馬車の止まる音が聞こえる。窓の外を見ると、公爵家の紋章が入った馬車が玄関の前に止まっていた。


「お迎えが来たみたいね」


 母の言葉に、セリアは静かに頷く。

 深く息を吸い、小さく胸に手を当てた。

 心臓が少しだけ早く鼓動する。

 怖くないと言えば嘘になる。

 それでも——。


(大丈夫。今度こそ、自分の気持ちを伝えよう)


 そう心に決め、セリアはゆっくりと部屋を後にした。

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