24.
翌日。
病室の窓から差し込む朝日を浴びながら、セリアは一通の手紙を読み返していた。
「楽しそうね」
病室に入ってきた母が、くすりと笑う。
「オーレリア様からです」
セリアは嬉しそうに手紙を抱きしめた。
事件のあと、オーレリアはすぐに手紙を送ってくれた。
何度も謝罪の言葉が綴られ、体調を気遣う内容ばかりだった。
ここ数日は、毎日手紙のやり取りをしていた。
「最近はお忙しいみたいなんです」
手紙に目を落としながら微笑む。
「ご家族と話し合うことが多いそうで……」
詳しいことは書かれていない。
それでも、きっと大切な話なのだろうと分かった。
ふと、ゼインの姿が頭に浮かぶ。
(ゼイン様も、お忙しいのかな)
魔塔主として多くの仕事を抱え、その合間を縫って自分の治療をしてくれている。
そう思うと、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
だけど、治療がなければゼインに会うこともない。
明日は、四回目の治療の日だった。
(……早く会いたいな)
◇◇◇
翌日。
四回目の治療も、問題なく終わった。
処置室から病室に戻ったセリアは、ベッドに横になりながら大きく息を吐く。
「お疲れさまでした」
主治医が優しく声をかける。
「ありがとうございます」
体は少し疲れている。
それでも以前とは違い、苦しさはほとんど感じなかった。
「今回は、前よりもっと楽でした」
その言葉に、主治医は嬉しそうに頷く。
「順調ですね」
ゼインもセリアの様子を見て、小さく頷いた。
「予定どおり改善している。私は魔塔へ戻る」
「お忙しいのに、ありがとうございました」
セリアが頭を下げると、ゼインは短く頷いた。
「あまり無理はするな」
それだけ言い残し、病室を後にする。
その背中を見送りながら、セリアは少しだけ寂しそうに微笑んだ。
ゼインが病室を後にすると、主治医はカルテを閉じてセリアたちに向き直った。
「ここまでの経過を見る限り、回復はとても順調です」
付き添っていた母が安堵したように胸を撫で下ろす。
主治医は穏やかな笑みを浮かべた。
「そろそろ短時間の外出なら許可してもよさそうですね」
「本当ですか?」
セリアは思わず身を起こした。
「ええ。ただし、人の多い場所は避けてください。疲れを感じたらすぐ休むこと。それが条件です」
「はい!」
嬉しそうに返事をするセリアを見て、主治医も頷く。
「さらに、ご家族が付き添われるのであれば、一泊ほどご自宅で過ごされても問題ないでしょう」
その言葉に、セリアは目を大きく見開いた。
「お家に……帰れるんですか?」
「ええ」
主治医は優しく微笑む。
「入院してもう一年になりますね。今の状態なら、無理をしなければ大丈夫でしょう」
セリアの瞳がみるみるうちに輝いていく。
「一年ぶり……」
小さく呟くと、嬉しそうに母の顔を見た。
「お母様、お家に帰れます……!」
母も目を潤ませながら笑顔で頷く。
「ええ、本当によかったわ。お父様もきっと喜んでくださいますわ」
そして、何かを思いついたように微笑んだ。
「料理長にも知らせなくてはいけませんね。セリアの好きなお料理を、たくさん作ってもらいましょう」
「本当ですか?」
セリアは思わず笑みをこぼす。
「何がいいかな?久しぶりに料理長のシチューが食べたいです。アップルパイも……」
楽しそうに話し始める娘を見て、母も優しく笑った。
「料理長が張り切ってしまいそうね」
二人のやり取りを見守っていた主治医が口を開く。
「外泊ですが、治療後の体調をもう少し確認したいので、二日ほど様子を見ましょう。後ほど詳しくご説明しますので、お母様と相談して日程を決めたいと思います」
「分かりました」
母は深く頭を下げた。
「後ほど改めてお話を伺います」
主治医が病室を後にすると、セリアは嬉しそうに窓の外を眺めた。
一年ぶりに帰る我が家。
家族と食卓を囲み、
自分の部屋で眠って、
窓から見るのではなく、自分の足で庭を歩く。
そんな当たり前の日常が、もうすぐ戻ってくる。
「楽しみだなぁ……」
その小さな呟きには、抑えきれない期待が込められていた。




