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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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23/52

23.

 フレディが療養院に行った日の夜。

 バーク侯爵家の応接室。


 重苦しい空気が部屋を包んでいた。

 侯爵は正面に座るフレディを厳しい表情で見つめる。


「フレディ」

「はい……」

「セリア嬢は命を落とすところだった」


 静かな声だった。

 しかし、その一言の重みは今までとは比べものにならない。


「医師から話は聞いた。アーモンドが原因だったそうだな」


 フレディは小さく俯いた。


「僕は、ちゃんとアーモンドが見えるものは避けたんです。だから、大丈夫だと思って……」


 侯爵は目を閉じ、小さく息を吐いた。


「思った、では済まされん。分からないなら店に確認することもできた。なぜ、それをしなかった」

「アーモンドのことは、僕の確認不足でした。それは反省しています」


 侯爵はゆっくりと首を横に振る。


「確認不足、で済む話ではない。お前は何度も療養院に見舞いに行っていた。セリア嬢がどれほど苦しんでいたか、その目で見てきたはずだ。それなのに、なぜ確認しなかった」


 フレディは言葉に詰まる。

 返す言葉が見つからない。

 しばらく黙っていたフレディは、小さな声で口を開く。


「でも……」


 フレディは真っ直ぐ父を見た。


「例えば、誰にでも失敗はあるじゃないですか。次から気をつければ——」

「違う!」


 普段は滅多に声を荒らげない父の怒声に、フレディは思わず息を呑んだ。


「問題は失敗したことではない。お前は今も、その本当の原因を理解していない」


 部屋が静まり返る。

 その時、侯爵夫人が穏やかな口調で口を開いた。


「あなた、フレディも反省しているじゃありませんか。次から気をつければ、それで十分でしょう?」


 侯爵はゆっくりと妻を見る。


「……本気で言っているのか」

「ええ」


 侯爵夫人は優しく微笑んだ。


「フレディは昔から優しい子ですもの。今回は少し運が悪かっただけです」


 その言葉を聞き、侯爵は静かに目を閉じた。

 胸の奥に、重い疲労が積もっていくのを感じる。

 妻もまた、この問題の本質を理解していなかった。

 侯爵は静かに息を整えると、再びフレディへ視線を向けた。


「もう一つ聞く。なぜ、屋敷を抜け出した」


 フレディは迷うことなく答える。


「誤解があると思ったからです」

「誤解?」

「はい。面会禁止なんて、おかしいじゃないですか」


 侯爵は黙って続きを促す。


「セリアとちゃんと話せば、分かってもらえると思ったんです。先生方も、ゼイン様も、きっと誤解しています。僕はセリアのためを思っていただけなんです」


 侯爵は静かに問いかける。


「そのセリア嬢は、お前に会いたいと言ったのか」

「……え?」

「面会禁止が決まったあと、お前に来てほしいと頼んだのか」


 フレディは言葉に詰まる。


「でも……きっとそう思っているはずです。病気の時は、一人だと寂しいですから」


 侯爵は深く目を閉じた。


「また、お前の思い込みか」


 その一言に、フレディは目を見開く。


「違います。僕も子どもの頃、病気になった時は誰かがそばにいてくれると嬉しかった。だからセリアも——」

「それは、お前の話だ」


 侯爵は静かに遮った。


「お前がそう思っていたとしても、セリア嬢も同じだとは限らん。それでも、お前は自分の考えだけを信じた」


 フレディは何も言い返せなかった。

 侯爵はしばらく息子を見つめていたが、やがて静かに口を開く。


「今日はもう部屋に戻りなさい」


 フレディは何か言おうと口を開く。


「父上……」

「今のお前と話しても、同じことの繰り返しだ」


 その声には怒りよりも、深い疲れが滲んでいた。

 フレディは何か言いたげに父を見つめたが、結局何も言えず、静かに部屋を後にした。

 侯爵夫人は心配そうに夫を見た。


「あなた、少し厳しすぎませんか? あの子だって悪気があったわけではありません」


 侯爵は何も答えなかった。


(……このままでは駄目だ)


 侯爵家を継ぐ者には、領民の命も家臣の人生も預けることになる。

 善意だけでは務まらない。

 フレディが変わることを信じたい。

 だが、侯爵家を預かる者として、それだけを願っているわけにはいかなかった。


(弟とも話をしなければならないかもしれん)


 弟には年頃の息子がいる。

 今まで考えたこともなかった。

 だが、後継者について一から考え直す覚悟も必要なのかもしれない。


 侯爵はゆっくりと目を閉じた。

 その表情には、父としての悲しみと、侯爵としての決意が静かに滲んでいた。

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