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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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21/52

21.

「離れろ」


 低く静かな声が病室に響く。

 フレディが振り返る。


「ゼイン様」

「処置の邪魔だ」

「違う!」


 フレディは必死に首を振る。


「僕は助けたいだけなんだ!セリアは——」


 最後まで言うことはできなかった。

 ゼインが静かに右手を上げた。

 指先から放たれた魔力が、空気を震わせる。

 次の瞬間、目に見えない衝撃がフレディの体を包み込んだ。


「うわっ!」


 ふわりと体が浮き、そのまま病室の壁際まで吹き飛ばされる。

 鈍い音とともに床に倒れ込んだ。

 大きな怪我はない。

 だが、突然の出来事に立ち上がることもできない。


 病室にいた看護師たちは息を呑んだ。

 魔塔主。

 国内最強の魔法使い。

 その力を目の当たりにし、誰も声を出せない。


 セリアは薄れていく意識の中で、その光景をぼんやりと見つめていた。

 黒いローブ。

 金色の瞳。

 まるで物語から現れたような姿。

 苦しそうに息を吐きながら、それでも安心したようにかすれた声が小さく漏れる。


「……魔王様」


 ゼインは何も答えない。


「イクス」

「はい」


 一言だけで十分だった。

 イクスはすぐに頷く。


「フレディ様、こちらへお願いします。処置の妨げになります」


 腕を貸そうとするが、フレディは呆然としたまま動けない。


「僕は……セリアが……」

「今は先生方にお任せください」


 イクスは穏やかな口調のまま言う。


「ゼイン様がいらっしゃいます」


 それでもフレディは病室を見つめ続けていた。

 イクスは静かに肩に手を添える。


「行きましょう」


 そのまま病室の外に連れ出した。


◇◇◇


 ゼインはすぐにセリアのそばへ歩み寄る。


「状態は」

「呼吸が苦しそうです! 薬の準備を!」


 当直医が指示を飛ばす。

 主治医も駆けつけ、治療にあたる。

 ゼインは迷うことなくセリアの手を取った。


「魔力を流す」


 静かな魔力がセリアの体へ流れ込む。

 乱れた魔力を少しずつ落ち着かせていく。


「呼吸が安定してきました!」


 看護師が安堵の声を上げる。

 ゼインは最後まで手を離さなかった。

 やがて処置は無事に終わる。


「峠は越えました」


 その言葉を聞き、病室の空気がようやく和らいだ。


「後は任せる」

「はい」


 ゼインは小さく頷くと、静かに部屋を出た。


◇◇◇


 廊下ではフレディが俯いたまま座っていた。

 ゼインはその前で足を止める。

 しばらく沈黙が流れる。

 先に口を開いたのはゼインだった。


「お前は」


 低く落ち着いた声だった。


「優しいつもりなのだろう」


 フレディはゆっくり顔を上げる。


「もちろんだ。僕はいつもセリアのためを思って——」

「違う」


 その一言で言葉を遮られる。


「一度でも、相手が望むことを聞いたか」


 フレディは言葉を失う。


「彼女の話を最後までちゃんと聞いたことがあるか。お前に注意してくれた人もいたはずだ。それでも、お前は自分の考えを優先した」


 ゼインの視線はまっすぐだった。


「優しさとは、自分がしたいことではない。相手が望むことを考えることだ」


 静かな言葉ほど胸に突き刺さる。

 フレディは何も返せなかった。

 ゼインはそれ以上何も言わず、再び病室に戻っていった。

 一人残されたフレディが、呆然とつぶやく。


「僕は……間違っていたのか」


◇◇◇


 どれほど眠っていたのだろう。

 セリアはゆっくりと目を開けた。

 最初に見えたのは、ベッドの傍らに座るゼインだった。

 目が合う。


「……魔王様?」


 ぼんやりと呟く。

 ゼインは小さく息を吐いた。


「魔王ではない。……目が覚めたか」


 その声を聞いて、ほっとする。

 夢ではなかった。


「体調はどうだ」

「……大丈夫です」


 少し掠れた声だったが、呼吸は落ち着いていた。

 ゼインは小さく息を吐く。


「そうか」


 そして、ほんの少しだけ表情を和らげた。


「無事でよかった」


 その一言に、セリアは静かに微笑んだ。

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