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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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19/52

19.

 あれから一週間。

 フレディは父の命令で外出を控えていた。

 部屋の窓から庭を眺めながら、小さく息を吐く。


「どうしてなんだ……」


 何度考えても答えは出なかった。

 セリアの体調が悪くなったこと。

 父に厳しく叱られたこと。

 面会禁止になったこと。

 思い返しても、納得できなかった。


(僕は間違ったことをしたのか?)


 ただ元気づけたかっただけなのに。

 少しでも笑ってほしかった。

 それなのに、どうして誰も分かってくれないのだろう。


 自然と、幼い頃の記憶が浮かんだ。

 幼い頃、熱を出して寝込んだことがある。

『フレディ様、大丈夫ですか?』

 侍女が心配そうに額に手を当てる。

 母もすぐに仕事を切り上げ、部屋に来てくれた。

『母上、大丈夫だよ』

『無理しなくていいの』

 母は優しく微笑み、フレディの手を握る。

『一人は寂しいでしょう? 私たちがそばにいるわ』

 その言葉が、とても嬉しかった。

 苦しくても、不安でも、誰かがそばにいてくれるだけで安心できた。


(だから……)


 セリアもきっと同じだ。

 一人で病室にいるより、誰かが話し相手になった方が嬉しいに決まっている。

 フレディは疑いもしなかった。


 別の日。

 庭で遊んでいた友人が転んで泣いていた。

『大丈夫?』

 フレディは駆け寄り、友人を立ち上がらせる。

 友人は涙を拭きながら笑った。

『ありがとう!』

 その笑顔が嬉しかった。

 屋敷に戻ると、母が優しく頭を撫でてくれた。

『優しい子ね』

 侍女たちも笑顔で口々に褒めた。

『さすがフレディ様です』

『困っている方を助けられるなんて素敵です』

 優しくするのは当たり前。

 困っている人は助けるもの。

 それが当然なのだと思って育った。


 父だけは違った。

 褒めるよりも先に問いかける。

『相手は本当に助けを求めていたのか』

 幼いフレディには、その意味がよく分からなかった。

 

 そして、もう一人。

 厳しい人がいたことを思い出す。

 家庭教師だった。

『相手の話を最後まで聞きなさい』

『優しさとは、自分がしてあげたいことではありません』

『相手が望んでいることを考えることです』

 何度もそう教えられた。

 だが、その家庭教師は理由も分からないまま、ある日突然屋敷からいなくなっていた。


 その後、母は笑顔で言った。

『教育方針が合わなかったのよ。あの先生は厳しすぎたわ』

 それ以上、理由を聞くことはなかった。

 今思えば、家庭教師がいなくなってからだった。

 父以外に、自分を叱る人がいなくなったのは。

 使用人たちはいつも笑顔だった。

 間違いを指摘する者はいなかった。


 フレディはゆっくりと立ち上がる。


「きっと何か誤解があるんだ」


 そう呟く。

 セリアは体調が悪かっただけだ。

 元気になれば、きっと分かってくれる。

 ちゃんと気持ちを伝えれば、今度こそ理解してもらえるはずだ。そう思うと、少しだけ心が軽くなった。


「そうだ」


 ふと思いつく。


「お菓子も買って行こう」


 セリアは甘いものが好きだった。


(子どもの頃も喜んで食べていた)


 久しぶりに好きなお菓子を持って行こう。

 フレディはそう信じて、部屋を後にした。

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