19.
あれから一週間。
フレディは父の命令で外出を控えていた。
部屋の窓から庭を眺めながら、小さく息を吐く。
「どうしてなんだ……」
何度考えても答えは出なかった。
セリアの体調が悪くなったこと。
父に厳しく叱られたこと。
面会禁止になったこと。
思い返しても、納得できなかった。
(僕は間違ったことをしたのか?)
ただ元気づけたかっただけなのに。
少しでも笑ってほしかった。
それなのに、どうして誰も分かってくれないのだろう。
自然と、幼い頃の記憶が浮かんだ。
幼い頃、熱を出して寝込んだことがある。
『フレディ様、大丈夫ですか?』
侍女が心配そうに額に手を当てる。
母もすぐに仕事を切り上げ、部屋に来てくれた。
『母上、大丈夫だよ』
『無理しなくていいの』
母は優しく微笑み、フレディの手を握る。
『一人は寂しいでしょう? 私たちがそばにいるわ』
その言葉が、とても嬉しかった。
苦しくても、不安でも、誰かがそばにいてくれるだけで安心できた。
(だから……)
セリアもきっと同じだ。
一人で病室にいるより、誰かが話し相手になった方が嬉しいに決まっている。
フレディは疑いもしなかった。
別の日。
庭で遊んでいた友人が転んで泣いていた。
『大丈夫?』
フレディは駆け寄り、友人を立ち上がらせる。
友人は涙を拭きながら笑った。
『ありがとう!』
その笑顔が嬉しかった。
屋敷に戻ると、母が優しく頭を撫でてくれた。
『優しい子ね』
侍女たちも笑顔で口々に褒めた。
『さすがフレディ様です』
『困っている方を助けられるなんて素敵です』
優しくするのは当たり前。
困っている人は助けるもの。
それが当然なのだと思って育った。
父だけは違った。
褒めるよりも先に問いかける。
『相手は本当に助けを求めていたのか』
幼いフレディには、その意味がよく分からなかった。
そして、もう一人。
厳しい人がいたことを思い出す。
家庭教師だった。
『相手の話を最後まで聞きなさい』
『優しさとは、自分がしてあげたいことではありません』
『相手が望んでいることを考えることです』
何度もそう教えられた。
だが、その家庭教師は理由も分からないまま、ある日突然屋敷からいなくなっていた。
その後、母は笑顔で言った。
『教育方針が合わなかったのよ。あの先生は厳しすぎたわ』
それ以上、理由を聞くことはなかった。
今思えば、家庭教師がいなくなってからだった。
父以外に、自分を叱る人がいなくなったのは。
使用人たちはいつも笑顔だった。
間違いを指摘する者はいなかった。
フレディはゆっくりと立ち上がる。
「きっと何か誤解があるんだ」
そう呟く。
セリアは体調が悪かっただけだ。
元気になれば、きっと分かってくれる。
ちゃんと気持ちを伝えれば、今度こそ理解してもらえるはずだ。そう思うと、少しだけ心が軽くなった。
「そうだ」
ふと思いつく。
「お菓子も買って行こう」
セリアは甘いものが好きだった。
(子どもの頃も喜んで食べていた)
久しぶりに好きなお菓子を持って行こう。
フレディはそう信じて、部屋を後にした。




