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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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18/52

18.

 それから五日後。

 三度目の治療も、大きな問題なく終わった。

 治療後、病室に戻ったセリアは主治医の診察を受けていた。

 ベッドに横になっていたセリアは、ゆっくりと息を吐いた。


「お疲れさまでした」


 主治医が優しく声をかける。


「ありがとうございます」


 体は疲れている。

 それでも、以前のように起き上がれないほどではなかった。


「前よりずっと楽です」


 その言葉に、主治医は嬉しそうに頷く。


「順調ですね」


 診察を終えると、主治医は別の患者のもとに向かった。

 病室にはゼインとイクス、そしてセリアの三人だけが残る。

 イクスは二人の様子を眺めながら、小さく笑った。

 最近のゼインは、以前よりもわずかに表情が柔らかくなったように見える。

 セリアの純粋さのおかげなのか、それとも『魔王様』と呼ばれているせいなのか。

 本人は認めないだろうが、悪い変化ではない。

 自然と口元が緩んだ。

 その視線に気づいたゼインが、ちらりとイクスを見る。


「……何だ」

「いえ、別に」

「そうか」


 短く返事をするゼイン。

 その様子が可笑しくなり、イクスは思わず笑いそうになった。


「では、治療記録を主治医の先生に渡してきます」


 そう言って病室を出ていった。

 部屋には静かな空気が流れる。

 ゼインはふと、ベッドの横に置かれていた本に目を向けた。


「また勇者の本か」

「はい」


 セリアは嬉しそうに頷いた。


「でも、一番好きなのは魔王様なんです」


 ゼインは本を手に取り、表紙を眺めた。


「以前もそう言っていたな。なぜ勇者ではなく魔王なんだ」


 セリアは少し考えるように視線を上げた。


「最初は勇者が好きでした。冒険して、仲間が増えて、知らない世界へ行くお話が大好きで」


 楽しそうに笑う。


「私にはできないことばかりだったので、読んでいるだけでわくわくしたんです。その頃は、魔王様のことも、ただ強くて格好いいと思っていました」


 だが、その笑顔は少しだけ寂しそうに変わる。


「でも、ある時気づいたんです」


 そっと本を見つめる。


「この魔王様も、ずっと一人なんだって」


 静かな声だった。


「勇者には仲間がいます。でも魔王様は、最後まで一人で戦うんです」


 少しだけ笑う。


「私も幼い頃から、みんなが外で遊んでいるのを部屋から見ていることが多くて、学園に通うこともできませんでした」


 照れくさそうに目を伏せる。


「勝手に親近感を持ってしまいました」


 ゼインは何も言わず、その話を聞いていた。

 セリアの言葉が、自分の過去と重なった。


 魔力が強くなるほど、人は自然と距離を置くようになった。

 魔塔主となった今、周囲は敬意を払う。だが、その視線の奥にあるものは尊敬だけではない。

 畏れ。緊張。そして、決して踏み込もうとしない遠慮。

 立場上、周囲には常に人がいる。

 それでも、本当の意味で隣に立つ者はほとんどいなかった。

 長い沈黙のあと、ゼインはぽつりと呟いた。


「……わかる」


 その一言だけだった。

 セリアは目を丸くする。


「ゼイン様でも……ですか?」


 思わず聞き返してしまう。

 ゼインは答えない。

 ただ静かに本を閉じると、セリアに返した。

 それ以上何も語らない。

 それでもセリアの胸は、不思議と温かくなっていた。


(私の気持ちを、分かってくれたんだ)


 そのことが、何より嬉しかった。

 ゼインは静かに立ち上がる。


「治療の後だ。今日はもう休め」

「あっ……」


 気づけば、思ったより長く話し込んでいた。


「すみません」

「気にするな」


 短く答え、ゼインは扉に向かう。


「また来週だ」

「はい」


 セリアは笑顔で頷いた。


「ありがとうございました」


 病室を出ていくゼインの背中を、セリアは見つめていた。

 扉が閉まると、手元の本に視線を落とした。


(魔王様……)

 

 セリアは本を抱きしめ、小さく微笑んだ。

 『わかる』というあの一言は、いつまでもセリアの胸に残った。

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