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病弱令嬢は”魔王様”に恋をする  作者: ぽかぽか


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17/52

17.

 二日後。

 午後の日差しが病室に差し込む頃、扉が静かに叩かれた。


「セリア様、入ってもよろしいかしら」

「オーレリア様!」


 セリアは嬉しそうに顔を上げた。

 オーレリアは病室に入ると、以前よりも血色の良いセリアを見て安堵したように微笑んだ。


「元気そうで安心したわ」

「はい」


 セリアも自然と笑顔になった。


「治療を始めてから、前よりずっと体が楽なんです」

「それは良かった」


 オーレリアは窓際の椅子に腰を掛けた。

 しばらく近況を話していると、セリアが「あっ」と何かを思い出したように声を上げる。


「そうでした。ゼイン様に、私のことを話してくださったんですよね」


 オーレリアは小さく首を横に振った。


「それは少し違うわ」

「え?」

「あなたを診ると決めたのは、お兄様自身よ」


 穏やかに微笑む。


「私は、療養院に友達ができたと話しただけ」

「そうだったんですね……」


 セリアは少し照れたように笑った。


「でも、きっかけを作ってくださったのはオーレリア様です。本当にありがとうございます」


 オーレリアはその言葉を聞き、優しく目を細めた。


「お礼を言うのは私の方よ。フレディ様から聞いたわ」


 セリアは不思議そうに首を傾げる。


「私を庇ってくれたそうね」


 その言葉に、セリアは少し恥ずかしそうに笑った。


「だって、本当のことですから。オーレリア様は、そんなことをする人じゃありません」


 迷いのない言葉だった。

 オーレリアは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 二人は顔を見合わせる。


「最初にお会いした時は、お互い謝ってばかりでしたね」


 セリアがくすっと笑う。


「ええ」


 オーレリアも思わず笑みをこぼした。


「まさか、こんなふうに笑って話せるようになるなんて思わなかったわ」


 病室には穏やかな空気が流れる。

 笑いが落ち着いた頃、セリアの表情が少し曇り、迷ったように視線を落とした。


「実は……」


 面会禁止になった経緯を、ゆっくりと話し始める。

 オーレリアは最後まで黙って聞いていた。


「そう……」


 静かに息をつく。


「面会禁止になったことは、お兄様から聞いてはいたけれど、実際にあなたの口から聞くと……胸が痛いわ」

「はい……幼い頃からお世話になってきた方なので、少し複雑な気持ちでもあります」


 セリアは正直にそう言った。


「でも、先生方が私のために決めてくださったことですから」


 オーレリアは小さく頷いた。


「あなたが安心して治療を受けられることが、一番大切よ」


 そして話題を変えるように、小さな箱を差し出した。


「治療を頑張っているあなたに、何か贈りたいと思って」

「私にですか?」


 包みを開けると、中には銀色の栞が入っていた。

 小さな鳥が羽を広げた可愛らしい細工だった。


「本がお好きでしょう? 読書のお供にしてくれたら嬉しいわ」

「素敵……」


 セリアは嬉しそうに栞を手に取る。


「大切にします」


 セリアがさっそく本に栞を挟むのを見届けてから、オーレリアはふと思い出したように尋ねた。


「そういえば、お兄様、厳しくありませんか?」


 オーレリアが少し悪戯っぽく尋ねる。

 セリアはすぐに首を横に振った。


「全然!」


 あまりにも即答だったので、オーレリアは思わず笑ってしまう。


「ゼイン様は優しい方です。必要なことしかおっしゃいませんけど、ちゃんと見ていてくださるんです」

「そう」


 オーレリアは静かに微笑んだ。


(やっぱり……)


 兄は昔から不器用だった。

 優しさを言葉にするのは苦手だ。

 けれど、それをきちんと受け取ってくれる人もいる。


(セリア様のような人なら……)


 そんな考えが一瞬頭をよぎり、オーレリアは自分でも気が早いと小さく笑った。

 けれど、今は兄のことを考えている場合ではない。自分の婚約について、答えを出さなくてはならなかった。


◇◇◇


 その日の夜。

 仕事を終えたゼインがイクスと共に帰ってきた。

 オーレリアは、応接室で今日の出来事を話していた。


「セリア様は、前よりずっと元気そうでした」

「そうか」


 ゼインは短く頷く。

 イクスも嬉しそうに笑った。


「順調で良かったですよね」


 しばらく沈黙が流れたあと、ゼインが静かに口を開く。


「フレディとのことを聞いてもいいか?」

「……はい」


 オーレリアはゆっくり頷いた。


「お前はどう思っている」


 その問いに、オーレリアはすぐには答えられなかった。

 今日まで何度も考えてきた。

 それでも答えはまだ出ない。


「このままで良いとは……思えません」


 静かな声だった。

 ゼインは妹を見つめる。


「焦って決めることはない。だが、後悔だけはするな。家の都合だけで選ぶ必要もない」


 オーレリアはその言葉を胸に刻むように、小さく頷いた。


「はい、お兄様」

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