15.
その頃、王立魔法療養院では、セリアが診察を受けていた。
「少し熱がありますね」
主治医は、体温を記録した紙を見ながら穏やかに言った。
セリアは申し訳なさそうに笑う。
「やっぱり……」
「何か思い当たることはありますか?」
少し考えてから、小さく頷く。
「最初の治療を受けてから、体がすごく楽だったんです」
「はい」
「だから嬉しくて……」
照れくさそうに笑う。
「ここ数日、中庭をいつもより長く歩いたり、夜遅くまで本を読んだりしてしまって」
主治医は責めるような表情はしなかった。
「そうですか。前回の治療から、今日で六日が経っています」
カルテに目を落とす。
「治療から日が経ち、再び魔力が溜まり始めています。その状態で無理をすると、疲れが発熱や息苦しさとして現れやすいのです」
セリアはしゅんと肩を落とした。
「浮かれてしまいました……」
「嬉しいお気持ちはよく分かります。ですが、まだ治療は始まったばかりです」
「はい……」
「今日は安静にしてください」
「分かりました」
主治医は看護師に、今日は面会を控えさせるよう伝えてから病室を出た。
しばらくすると、再び扉が叩かれた。
「セリア」
聞き慣れた声に顔を上げると、フレディが笑顔で部屋に入ってきた。
受付には面会を控えるよう連絡が届いていなかったらしく、フレディはいつものように病室まで通されてしまった。
「フレディ様」
「顔色があまり良くないね」
心配そうにセリアの顔を覗き込む。
「少し熱が出ていて」
「そうなのか」
フレディは病室を見回した。
閉め切られた窓に視線が止まる。
「少し空気を入れ替えよう」
「えっ?」
セリアが止める間もなく、フレディは窓を開けた。
外から涼しい風が病室へ流れ込む。
「ほら」
フレディは気持ちよさそうに笑う。
「今日はいい天気だよ。風も気持ちいい」
セリアは肩を小さく震わせた。
体調が良い時なら、このくらいの風は何とも思わなかった。
けれど今は違う。
熱があるせいか、少し肌寒く感じる。
「フレディ様……」
「ん?」
「少し寒いかも」
「すぐ空気は入れ替わるよ」
フレディは気にした様子もなく窓の外を眺めた。
「閉め切った部屋にいるより、その方が気分も晴れる」
「でも、本当に寒いんです。閉めてください」
「もう少しだけだから」
悪気がないことは分かっていた。
だから、これ以上強く言うことができなかった。
その時だった。
「失礼します」
看護師が様子を見に入ってきた。
「あら?」
開いた窓を見るなり、表情が変わる。
「セリア様、寒くありませんか?」
「少し寒いです」
慌てて窓を閉める。
「体が冷えると魔力回路の流れがさらに悪くなり、症状が悪化することがあります」
「でも」
フレディは穏やかに答えた。
「少し空気を入れ替えた方が気分も良くなるでしょう?」
「お気持ちは分かりますが、今日は安静が必要です」
看護師は申し訳なさそうに頭を下げる。
「先生をお呼びします」
そう言うと、足早に病室を出ていった。
しばらくして、主治医が部屋に入ってきた。
「フレディ様」
穏やかな口調だったが、その表情は真剣だった。
「セリアさんは明日、二回目の治療を予定しています」
「はい」
「本日は熱も出ていますので、できるだけ安静に過ごしていただく必要があります」
フレディは少し困ったように笑った。
「だからこそ、気分転換も必要だと思ったんですが」
「お気遣いには感謝しております」
主治医は丁寧に頭を下げる。
「ですが、ここから先は私どもへお任せください」
「少し話をするだけです」
「申し訳ありません。今日はお帰りください」
病室に短い沈黙が流れる。
フレディは納得していない様子だったが、主治医の真剣な表情を見て、小さく息を吐いた。
「……分かりました」
立ち上がると、セリアに優しく笑いかける。
「明日の治療、頑張ってね」
「はい……」
「また時間ができたら来るよ」
そう言い残し、フレディは病室を後にした。
扉が閉まると、主治医は小さく息をつく。
「セリアさん、大丈夫ですか?」
「はい」
セリアは申し訳なさそうに微笑んだ。
「ご迷惑をかけて、すみません」
「謝る必要はありません」
主治医は穏やかに答えた。
「今日はゆっくり休んでください。明日の治療に備えましょう」
その言葉に、セリアは静かに頷いた。




