11.
翌朝。
父と母が病室を訪れた。
「おはよう、セリア」
「おはよう、朝早くから来てくれてありがとう」
二人の姿を見ると、セリアは少しだけ表情を引き締めた。自分で考えた答えを、きちんと伝えようと思ったからだ。
「話があるんでしょう?」
母が優しく問いかける。
セリアは小さく息を吸い、二人をまっすぐ見つめた。
「お父様、お母様。私、決めました」
その一言に、父と母は静かに耳を傾ける。
「ゼイン様の治療を受けたいです」
父と母は顔を見合わせた。
「そうか」
父は静かに頷き、母はセリアの手を握った。
「あなたが決めたのなら、私たちは支えるわ」
「ああ、どんな結果になっても、一緒に受け止める」
父の言葉に続き、母は握った手に力を込めた。
「だから、一人で頑張ろうとしないでね。不安になった時は、ちゃんと私たちに話してちょうだい」
母の温かな手に触れ、セリアは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「ありがとう」
自然と笑みがこぼれた。
「診察の時に、先生に治療を受けるって伝えてくる」
本当は両親も付き添うと言ってくれたが、自分の意思は自分の口で伝えたかった。
父は力づけるように頷き、母が笑顔で言った。
「ええ、行ってらっしゃい」
その言葉に背中を押されるように、セリアは無理をしないようゆっくりと廊下を進み、診察室へ向かった。
◇◇◇
診察室では、主治医がいつものようにセリアの体調を確認していた。
「体調はいかがですか?」
「もう大丈夫です」
一晩休んだおかげで、息苦しさも落ち着いていた。
少し沈黙が流れる。
セリアは膝の上で手を握り、小さく息を吸った。
「あの……先生」
「はい」
「先日のお話ですが」
真っ直ぐ主治医を見た。
「治療を受けたいです」
迷いのない声だった。
「危険があることも分かっています」
「それでも?」
「はい」
セリアは静かに頷く。
「可能性があるなら、挑戦したいです」
主治医は安堵したように、わずかに表情を和らげた。
「ご両親とも話し合われましたか?」
「はい。二人とも私の決断を支えると言ってくれました」
父も母も、最後は笑って送り出してくれた。
『どんな結果になっても、一緒に受け止める』
その言葉が、今も背中を押してくれている。
「分かりました」
主治医は大きく頷いた。
「すぐにゼイン様にお伝えします」
◇◇◇
魔塔では、ゼインが書類に目を通していた。
扉が叩かれ、イクスが部屋に入ってきた。
「療養院から連絡がありました」
ゼインは顔を上げた。
「セリア様が治療を希望されたそうです」
「そうか」
短く答えると、ゼインは机の上に置かれていたセリアの記録に目を落とした。
治療記録で前回の処置日を確認し、自身の予定表に目を移した。
「最初の治療は二日後にする」
「二日後ですか?」
「ああ」
ゼインは静かに頷いた。
「前回の治療からは六日後になる。魔力が溜まりきる前の方が、回路への負担を抑えられる」
「なるほど」
「具体的な治療手順と今後の日程についても、本人と家族に説明する必要がある。準備を整えるよう、療養院に伝えてくれ」
「承知しました」
◇◇◇
その日の夕方。
主治医は、セリアの病室を訪れた。
「ゼイン様からお返事がありました」
セリアは本を閉じ、顔を上げた。
「最初の治療は二日後に決まりました。治療の前に、今後の進め方について改めて説明してくださるそうです」
「二日後……」
思ったより早かった。
怖さは消えなかった。
それでも、前へ進めることへの期待が、わずかにそれを上回っていた。
「分かりました。ゼイン様にも、よろしくお伝えください」
セリアは小さく頭を下げた。
◇◇◇
その頃、キャンベル公爵家では、オーレリアが自室で本を読んでいた。
部屋の扉が叩かれる。
「失礼いたします」
入ってきたのは、侍女のエマだった。
「ホワイト夫人からご連絡がありました」
「セリア様のお母様からですか」
「はい。昨日、フレディ様がお見舞いにいらっしゃったそうです」
本を閉じる指に、わずかに力がこもった。
「……そう。何か問題がありましたか?」
「フレディ様とのお話の最中に、セリア様が息苦しさを訴えられたそうです」
オーレリアはゆっくりと立ち上がる。
胸の奥に、小さな不安が広がった。
「フレディ様へ、改めてお話ししたいと伝えてください」
「かしこまりました」
エマが一礼して部屋を出ていく。
「今度こそ、分かっていただかなくては」
オーレリアは窓の外を見つめ、小さく息をついた。




