↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
フィールドノート Ⅰ 内ヶ島伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/48

九 帰雲祭

翌日は、村の新しい祭りの初日だった。


《帰雲祭》


古くからの行事ではない。


地域振興事業の一環として、その年から始まった。観光客には鬼の面が配られ、夜には山へ向けて灯籠を並べる。埋没した城下の住民を迎える、という説明が付けられていた。


村の子供たちは白い鬼の面を被って走り回っていた。


土産物屋には、《内ヶ島の鬼》と印刷された菓子が並んでいる。


伝承は、すでに商品になっていた。


「中止にすべきです」


鴨田は大牧へ言った。


資料館の事務室だった。


井波もいる。


「根拠となる伝承は確認できない。聞き取りはAIによって汚染されている。架空の文献を実在するように表示している。少なくとも、文化事業として公表できる状態ではありません」


大牧は親指を握った。


「今日、中止にしたら、村は全国に笑われます」


「続ければ、もっと笑われます」


「先生には、そう見えるでしょうね」


「どういう意味です」


「村の外から来て、嘘か本当かだけ決めればいい人には」


鴨田の顔が硬くなった。


大牧は続けた。


「この村は、世界遺産だけで食べていけると思われています。でも、観光客が来る地区は限られている。若い人は出ていく。学校は減る。山は荒れる。帰雲城は、場所すら分からない。何百人も死んだのに、見せられるものが何もない」


「だから、鬼を作った?」


「物語を作ったんです」


井波が言った。


鴨田は彼を見た。


「認めるんですね」


「昔話なんて、誰かが最初に作ったものでしょう」


「匿名の長い伝承過程と、観光事業者による意図的な偽造を同一視しないでください」


「結果として村に残れば、違いはありますか」


「あります」


「学者にとっては」


井波は笑った。


「観光客は、真実を見に来るんじゃない。何かを感じに来るんです」


「岩瀬さんも、そう考えていましたか」


井波の笑みが止まった。


「彼は技術者です」


「あなたの会社の」


「事故の話と事業を結びつけるのは、やめていただきたい」


事務室の扉が開いた。


三輪が立っていた。


息を切らしている。


「真壁がいません」


鴨田が振り返った。


「どういう意味です」


「岩瀬さんのクラウドに、地図がありました。旧調査坑の中の」


「一人で行ったんですか」


三輪は答えなかった。


その顔で分かった。


鴨田は鞄を掴んだ。


井波が立ち上がった。


「待ってください」


かなえが彼の前に出た。


「なんで?」


「危険です」


「何があるの」


「古い坑道です。崩れる可能性がある」


「それだけ?」


井波は黙った。


かなえが言った。


「先生、学生を連れ戻して」


「あなたは」


「この人と話す」


鴨田は一瞬迷った。


かなえは井波を見たまま言った。


「今度は、何を消しに行くつもりだったのか聞いとく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。