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境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
恋死島奇譚

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恋死島(4) 恋死祭

一千年の奇祭、恋死祭。


島中の石が、軒先で鳴った。


かち。

かち。

かち。


まよりは白い着物を着せられ、恋死神社の前に立たされた。


高石は島民に向かって言った。


「外の男がまた来た。島の女を惑わせた。恋死様に返す」


鴨田が、縄で縛られていた。


本人は妙に落ち着いていた。


「十三湊さん、これはフィールドワークとして非常に貴重です」


「命を張るタイプの研究、だいたい査読通りませんよ」


かなえも縛られていた。


ただし、彼女の縄はゆるかった。


マジシャンだからである。


縛られたふりは、営業で何度もやった。


問題は、その営業が一度もウケたことがない点だけだった。


高石は、黒い大石の前に鴨田を引きずった。


「恋死様、受け取れ」


波が高くなった。


本当に。


風が変わった。


灯油ランプの炎が、青くなった。


島民たちの表情から、演技が消えた。


むつ婆が震えた声で言った。


「玄馬、やめれ。今夜は、本当に起きる」


大石の表面に、文字が浮かんだ。


恋。

死。

十三湊。


かなえの喉が鳴った。


石の奥から、女たちの声が聞こえた。


――置いていくな。

――忘れるな。

――恋は死んだ。

――だから島は残った。

――だから女は残った。

――だから男は死ね。


まよりが泣いた。


「もう、やめて」


高石が叫んだ。


「島を守るんだ!」


その瞬間、かなえは縄を抜けた。


手首からするりと縄が落ちる。


島民が息をのんだ。


かなえは、袖から赤いハンカチを出した。


「本日のマジックは」


声が震えた。


でも、言った。


「あなたたちの初恋を当てます」


誰も笑わなかった。


かなえは、黒い大石に手を置いた。


冷たくなかった。


熱かった。


石の中に、無数の恋があった。


告げられなかった恋。

待っていた恋。

帰らなかった恋。

村を焼いた兵への恋。

敵に水を渡した少女への恋。

島を出たい娘への恋。

島に残す母への恋。

死んだ男への恋。

殺してしまった者への、もっと救いようのない恋。


かなえは、それらを見た。


そして、少しだけ笑った。


「恋って、死なないんですよ」


石が鳴った。


「死ぬのは、恋を閉じ込める仕組みです」


かなえは、ハンカチを石にかぶせた。


一秒。


二秒。


三秒。


ハンカチを取る。


大石は消えていた。


島民たちは叫んだ。


高石は膝をついた。


鴨田だけが、目を見開いていた。


「消失現象……質量保存則が……」


かなえは、袖から黒い小石を一つ取り出した。


「タネは簡単です」


嘘だった。


タネなどなかった。


大石は本当に消えた。


けれど、マジシャンは奇跡を奇跡のまま売ってはいけない。


奇跡は高い。

人を狂わせる。


手品は安い。

だから人を救うことがある。


かなえは小石をまよりの掌に置いた。


「これ、持って島を出な」


まよりは泣きながら首を振った。


「蓮はもういない」


「だから行くんだよ」


鴨田が縄をほどかれながら言った。


「鹿内蓮さんは、君に島を捨てろと言ったのではない。島の外にも、島を覚えている場所を作ろうとしたんだ」


かなえは彼を見た。


「先生、たまにまともなこと言うんですね」


「元准教授ですから」


「元は関係ない」


祭りは終わった。永遠に。

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