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境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
フィールドノート Ⅰ 内ヶ島伝説

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七 捏造の方法

二日目の夜、四人は宿の食堂に資料を広げた。


鴨田の機嫌は悪かった。


悪いときほど、仕事が速かった。


《くもわらし》が参照したという三つの資料のうち、『保木脇聞書』と『白川山中異聞』は実在しなかった。


『御母衣旧家語り』は題名だけが実在していたが、鬼や内ヶ島氏に関する記述はない。


「典型的な参照元の合成です」


鴨田は言った。


「実在する地名と、よくある資料名の形式を結びつけた。生成AIが架空の文献を作るときの癖です」


真壁がプリントを差し出した。


「でも、この語りは?」


村の聞き取り映像だった。


七人の高齢者が、似た話をしている。


山中に鬼の里があった。


内ヶ島氏は、その里を守る一族だった。


帰雲城が滅んだ夜、鬼は山の中へ帰った。


言葉遣いは異なっているが、筋は一致していた。


「映像の撮影日は?」


三輪が訊いた。


「昨年の九月から十二月」


「AIの公開は今年三月。でも、試験運用は?」


「昨年七月」


鴨田が答えた。


三輪は映像を早送りした。


「全員、同じワークショップに参加してる」


画面の隅に、《記憶を語る会》という札が映っている。


村民が昔の写真を見て、記憶を語り合う催しだった。進行役は井波。机の上には《くもわらし》の試作機が置かれている。


映像では、AIが先に物語を提示していた。


――内ヶ島氏が鬼の末裔だったという説があります。


老人が答える。


「そうやったかな」


別の老人が言う。


「山の中に、怖いもんがおるとは聞いた」


数分後には、


「鬼の話やったかもしれん」


となる。


次の会合では、


「昔、親から聞いた」


となっていた。


真壁が唇を噛んだ。


「記憶を誘導してる」


「意図的かどうかは分かりません」


鴨田は言った。


「少なくとも、聞き取り資料としては使えない」


「じゃあ全部、AIの捏造?」


真壁の声には、落胆が混じっていた。


鴨田はそれを聞き逃さなかった。


「残念ですか」


「そういう意味じゃ」


「発見したかった?」


真壁は黙った。


鴨田は資料へ目を落とした。


「研究者は、ないものを見つける仕事ではありません。ないと確認するのも仕事です」


かなえが言った。


「自分に言ってる?」


鴨田は無視した。


三輪が別の映像を止めた。


「ここ」


岩瀬が映っている。


部屋の隅でノートパソコンを操作しながら、井波へ何かを見せている。


音声は遠い。


三輪は音量を上げた。


『このファイル、誰が入れたんですか』


岩瀬の声。


『初期データに、もう入ってるんです』


井波が何か答えた。


聞き取れない。


岩瀬がもう一度言う。


『だから、その初期データを作ったのは誰ですか』


映像が切れた。


鴨田が訊いた。


「元の動画は」


「事業のクラウドにあります」


「アクセスできますか」


「岩瀬さんの公開リンクが残ってる」


「どうしてあなたは、そういうものばかり見つけるんです」


「みんな、消したつもりで消してないからです」


三輪はイヤホンを外した。


「先生たちは、意味があると思ったものしか保存しない。でも、意味が分からないものを消さないのがログです」


かなえが笑った。


「この子、先生よりフィールドワーク向いてるかもね」


「ログ収集と現地調査は別です」


「都合悪そう」


「悪くありません」


真壁が、隣の三輪へ小声で何か言った。


三輪が笑った。


鴨田は二人を見た。


「やはり君たち、付き合っているのでは」


「違います」


二人が同時に答えた。


かなえが箸を置いた。


「息ぴったり」


今度は鴨田が黙った。

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