↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
フィールドノート Ⅰ 内ヶ島伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/48

三 帰る雲

白川郷へ向かう高速道路は、山と山の隙間を縫っていた。


十一月の初めだった。高いところにはもう雪があり、低いところには紅葉が残っている。季節が、標高に沿って何段にも分かれていた。


鴨田は助手席で資料を読んでいた。


かなえが運転している。


後部座席には真壁と三輪がいた。大学の正式な実習ではない。鴨田は二人を「調査補助」と呼び、大学には「自主的な学修活動」と届け出ていた。


「天正十三年十一月二十九日」


真壁が資料を読み上げた。


「大地震によって帰雲山が崩壊。内ヶ島氏の居城、帰雲城と城下が埋没。城主一族、家臣、住民の多くが死亡。城の正確な所在地は、現在も確定していない」


「知っています」


鴨田が言った。


「先生に説明してるんじゃありません」


「声に出す必要がありますか」


「三輪が寝てるので」


「寝てません」


三輪は目を閉じたまま言った。


「録音してます」


「何を」


「全員の会話」


「許可していません」


「先生、現地調査では記録が大事だって言いましたよね」


鴨田は振り返った。


三輪は目を開けた。


「都合の悪いときだけ、記録を嫌うんですね」


かなえが笑った。


鴨田は資料へ戻った。


帰雲城は、場所の分からない城だった。


山体崩壊によって地形そのものが変わった。現在「帰雲城址」と呼ばれている場所も、発掘によって城跡と確定したわけではない。夢枕に立った武将のお告げをきっかけに、供養の場所として整えられたものだ。


城が先に見つかり、碑が建ったのではない。


碑が建ち、そこを城跡と呼ぶようになった。


「すでに一度、夢によって城が復元されている」


鴨田が独り言のように言った。


「今回はAIで復元する」


真壁が答えた。


「夢よりはましでしょうか」


「誰の夢か分からないぶん、悪質かもしれません」


三輪が言った。


かなえがハンドルを切った。


谷の向こうに、山肌の大きな傷が見えた。


木が生えていても、そこだけ山の形が不自然だった。緑に覆われた崩壊は、治った傷ではなく、傷口の上に時間が積もったものに見えた。


「帰る雲って、きれいな名前だね」


かなえが言った。


「帰雲の語源には諸説あります」


鴨田が答えた。


「そういうことじゃない」


「名前の話をしたのはあなたでしょう」


「先生は、名前を説明しないと死ぬ病気なの?」


「説明しなければ、何を話しているか分からない」


「分からないまま見たほうがいいものもあるよ」


鴨田は返事をしなかった。


窓の外で、山の影が長くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。