↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
ハルシネイト Ⅲ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/48

∞ 11

 放送が終わったあと、かなえは浜辺で小さな手品をした。


 観客は、凪と、祭りの片づけをしていた数人だけだった。


 かなえは八つの赤い球を、両手に四つずつ持った。


「よく見ていて」


 凪がうなずいた。


「見てたら見えないんでしょ」


「覚えてたの」


「おばあちゃんが言ってた」


「どのおばあちゃん?」


「分かんない」


 かなえは一つずつ、球を消した。


 一つ。

 二つ。

 三つ。


 手の中から赤がなくなる。


 四つ。

 五つ。

 六つ。


 最後の二つを重ねた。


 七つ。


 そして八つ。


 両手を開く。


 何もなかった。


「どこに行ったの」


 凪が訊いた。


「次に出てくるところ」


「いつ?」


「出てきたとき」


「それじゃ分かんない」


「分からないから待てるんです」


 かなえはケースを閉じた。


 理恵は凪の横顔を見た。


 孫は、八重子には似ていなかった。


 目も、鼻も、指の形も違う。


 ただ笑うときだけ、左の犬歯が少し見えた。


「凪」


 理恵は名前を呼んだ。


 凪が振り返った。


「何?」


「何でもない」


「呼んだじゃん」


「返事するかと思って」


「するよ。私の名前だもん」


 凪は面倒そうに言った。


 理恵は笑った。


 それでよかった。


     *


 翌朝、蓮は黒瀬マリンサービスのシャッターを開けた。


 店の中には、油と鉄と埃の匂いが残っていた。


 作業台のラジオをつけた。


 周波数はFM浪越のままだった。


 雑音しか出なかった。


 蓮はしばらく聞いていた。


 やがて電源を切り、机の引き出しから英語の参考書を取り出した。


 慎二が書いた間違った答えは、まだ消していなかった。


 蓮は赤ペンを持ち、一問ずつ直した。


 全部終わるまでに、昼近くかかった。


 参考書を閉じ、シャッターの鍵を澄江の家へ返しに行く。


 店を出る前に、蓮はもう一度、室内を見た。


「また明日」


 言ってみた。


 返事はなかった。


 蓮はシャッターを下ろした。


 外には、八月の強い光があった。


 海から来た風の中に、ごくわずかに、秋の匂いが混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。