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午後六時、八十八の灯籠が海へ流された。
現在は協賛企業の分を含めて二百を越えていたが、住職は今も八十八と呼んだ。
海は穏やかだった。
灯籠は沖へ出ず、浜に沿ってゆっくり流れた。
鴨田が、午前中のテープの続きを持ってきた。
「最後に、これを流してもらえませんか」
「内容は」
蓮が訊いた。
「わらべ歌です」
「放送可能?」
真紀が訊いた。
「ホトという言葉は出ません」
「残念」
テープを再生した。
八重子の声が、古い旋律を歌い始めた。
一つ、ひらいて。
二つ、しずんで。
三つ、なくして。
四つ、ひろって。
五つ、わすれて。
六つ、おもって。
七つ、かえって。
八つ――
歌はそこで途切れていた。
「八つの次は?」
若い真紀が訊いている。
『ないよ』
『どうして』
『八まで来たら、また一へ戻るんだ』
『終わらないんですか』
『終わるよ。一回ずつは』
八重子は笑った。
『人だけ替わって、また始まる』
テープが止まった。
かなえが、放送席の後ろで小さく歌った。
「八つ、霧へ帰す」
鴨田が振り向いた。
「いま、何と」
「何も」
「歌の続きを知っているのですか」
「聞き間違いです」
「私は聞き間違えていません」
「特任教授は耳も研究するんですか」
「あなたの故郷にも、類似した歌があるのでは」
かなえは答えなかった。
銀色のケースを持ち、海の方へ歩いていった。
鴨田は追わなかった。
その背中を、長いあいだ見ていた。




