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境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
ハルシネイト Ⅲ

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∞ 9

 午後六時、八十八の灯籠が海へ流された。


 現在は協賛企業の分を含めて二百を越えていたが、住職は今も八十八と呼んだ。


 海は穏やかだった。


 灯籠は沖へ出ず、浜に沿ってゆっくり流れた。


 鴨田が、午前中のテープの続きを持ってきた。


「最後に、これを流してもらえませんか」


「内容は」


 蓮が訊いた。


「わらべ歌です」


「放送可能?」


 真紀が訊いた。


「ホトという言葉は出ません」


「残念」


 テープを再生した。


 八重子の声が、古い旋律を歌い始めた。


 一つ、ひらいて。

 二つ、しずんで。

 三つ、なくして。

 四つ、ひろって。

 五つ、わすれて。

 六つ、おもって。

 七つ、かえって。

 八つ――


 歌はそこで途切れていた。


「八つの次は?」


 若い真紀が訊いている。


『ないよ』


『どうして』


『八まで来たら、また一へ戻るんだ』


『終わらないんですか』


『終わるよ。一回ずつは』


 八重子は笑った。


『人だけ替わって、また始まる』


 テープが止まった。


 かなえが、放送席の後ろで小さく歌った。


「八つ、霧へ帰す」


 鴨田が振り向いた。


「いま、何と」


「何も」


「歌の続きを知っているのですか」


「聞き間違いです」


「私は聞き間違えていません」


「特任教授は耳も研究するんですか」


「あなたの故郷にも、類似した歌があるのでは」


 かなえは答えなかった。


 銀色のケースを持ち、海の方へ歩いていった。


 鴨田は追わなかった。


 その背中を、長いあいだ見ていた。

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