∞ 8
放送は午後三時から再開した。
真紀は、凪が無事に保護されたことを伝えた。
捜索に協力した人々へ礼を言い、胎内窟には立ち入らないよう呼びかけた。
「海は、返すこともありますが、返さないこともあります」
真紀はマイクへ向かって言った。
「返してもらうことを前提に、近づかないでください」
CMの間に、蓮は濡れた服を着替えた。
局のロゴが入った古いTシャツしかなかった。
胸に、
あなたのまちの、あなたの声。
と書かれている。
「ダサい」
真紀が言った。
「局の公式グッズです」
「だから潰れたんだね」
「市の広報に言ってください」
「それで」
真紀は台本をめくった。
「いつ言うの」
「何を」
「東京へ行くこと」
蓮は真紀を見た。
「どうして知ってるんですか」
「机の上に、採用通知を置く馬鹿がある?」
「引き出しに入れてました」
「その引き出し、私の」
「八年間、言ってくださいよ」
「八年間、気づきなさいよ」
蓮は椅子へ座った。
「まだ決めてません」
「行きな」
「簡単に言いますね」
「残るのは簡単だった?」
蓮は黙った。
「慎二の店も、ラジオ局も、あんたが守るものじゃない」
「誰も守らなかったら、なくなるでしょう」
「なくなるよ」
真紀は平然と言った。
「人も、店も、番組もなくなる。なくなったものを全部背負ってたら、次に会う人の入る場所がない」
「真紀さんは、どうするんですか」
「明日から無職」
「笑えません」
「私も」
真紀は台本を閉じた。
「でも、暇だから何か始めるよ。人は暇と性欲があれば、だいたい何か始める」
「ラジオで言わないでください」
「もうすぐ終わるからいいでしょ」
CMが明けた。
真紀は何事もなかったように、午後の交通情報を読んだ。




