∞ 5
午後二時十三分、凪がいなくなった。
最初に気づいたのは徹だった。
「果歩、凪は」
「そっちにいるんじゃないの」
「いない」
「トイレは」
「見た」
「理恵さんとこ」
「いないって」
果歩の顔から、音が消えたように見えた。
祭りの実行委員が名前を呼ぼうとした。
「待って」
鴨田が止めた。
「何」
果歩が怒鳴った。
「名前を呼ぶなって話、本気にしてるの?」
「迷信の問題ではありません。海岸全体へ名前を拡声すると、子どもが自分で動き、かえって捜索範囲が広がる可能性が」
「じゃあ、どうするの」
蓮は北側の岩場を見た。
赤い服の女。
胎内窟。
午前中、凪が指さした場所。
「洞穴を見てきます」
「一人で?」
真紀が言った。
「消防に連絡します。その前に入口だけ」
「英雄になるなよ」
「なりません」
「慎二も、そう言ったと思う」
蓮は真紀を見た。
「私は、飛び込みません」
放送用の機材を運んできた車に、救命胴衣と長いロープが積んであった。
蓮は胴衣を着た。ロープを腰へ結び、もう一端を徹と実行委員の男へ渡した。
「引っ張られたら、一回なら止める。二回なら引いてください」
「三回は」
徹が訊いた。
「二回までにします」
真紀がロープの結び目を確かめた。
「帰ってこい」
「命令ですか」
「業務命令」
「局、今日で終わるのに」
「午後八時までは上司です」
蓮は岩場へ走った。




