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境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
ハルシネイト Ⅲ

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∞ 4

 正午の特別番組には、鴨田とかなえが出演した。


 テーマは、仏ヶ浦縁起と、古い沿岸信仰。


 鴨田は八年間の調査を、十二分にまとめるよう求められていた。


「無理です」


 放送前、鴨田は言った。


「八年間調べたものを十二分で話すのが、専門家の仕事です」


 蓮が答えた。


「十二分で話せるなら、八年も調べません」


「残りは書籍で」


「出版社が見つかっていません」


 真紀がマイクを入れた。


「本日のゲストは、出版社を探して八年、鴨田茂樹特任教授です」


「研究内容を紹介してください」


「いま紹介しました」


 鴨田は目を閉じ、諦めたように話し始めた。


 仏ヶ浦の公式伝承では、夏の海難で死んだ八十八人の漁師が仏となって浜へ帰る。


 最後の漁師が妙海尼へ赤子を渡し、それ以来、死者供養と安産祈願が同じ日に行われるようになった。


「しかし、死者を送る説話に赤子が登場する理由は、仏教的には説明しにくい」


 鴨田は言った。


「地域に仏教が定着する以前、生と死を同じ循環として捉える信仰があった可能性があります」


「海から生まれて、海へ帰る」


 真紀が言った。


「単純化すれば」


「難しく言うと?」


「海洋を媒介とした世代間人格連続性の――」


「単純な方でいいです」


 鴨田は小さく息を吐いた。


 かなえがマイクへ近づいた。


「死者が帰ってくる、という話ではないと思います」


「では、何が帰るのでしょう」


「癖とか、言葉とか」


「魂ではなく?」


「魂って、そんなに個人的なものですか」


 真紀はかなえを見た。


「人が死んだあと、その人の言い方を誰かが使う。嫌いだった食べ物を、子どもが同じように嫌う。教えていない歌を知っている」


「それを、生まれ変わりと呼ぶ?」


「呼びたい人は」


「あなたは」


「呼びません」


「なぜ」


「帰ってきた人を、死んだ人の名前で呼ぶと、いま生きている人の名前がなくなるから」


 砂浜を風が渡った。


 灯籠の白い紙が、いっせいに鳴った。


 放送席の外で、凪が砂へ数字を書いていた。


 大きな8。


 それを横向きに倒した。


「何を描いたの」


 果歩が訊いた。


「寝てる八」


「起こしてあげたら」


「寝てる方が長くなる」


「何が」


「道」


 凪は棒を捨て、海の方へ走った。

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