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境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
ハルシネイト Ⅲ

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23/48

∞ 2

 FM浪越は、その日の午後八時で放送を終えることになっていた。


 開局から三十二年。


 市の第三セクターとして始まり、災害情報、商店街の宣伝、高校野球の実況、行方不明になった犬の特徴、道路へ牛が出たという注意喚起などを放送してきた。


 広告収入は減り、市の補助金も切られた。


 今後は防災無線と市役所の動画配信へ一本化される。


「ラジオがなくなっても、災害はなくならないけどね」


 真紀はそう言った。


 その本人は、朝から放送席で海を背に座っていた。


 五十歳を目前にしても、声だけは午後三時のままだった。


「これは最後の放送じゃありません」


 オープニングで真紀は言った。


「明日から電波が出なくなるだけです」


「それを最後と言うんです」


 蓮が小声で返した。


 マイクは切れていた。


「朝から細かいね」


「最後くらい台本を読んでください」


「台本書いた人がつまらないから」


「私です」


「知ってる」


 真紀は笑い、マイクを入れた。


「本日は午後八時まで、仏ヶ浦から十二時間の生放送です。浪越の生者と死者の皆さん、どうぞ最後までお付き合いください」


 蓮は慌ててマイクを絞った。


「死者へ呼びかけるのは禁止です」


「誰が決めたの」


「今日の番組の企画書に、自分で書いたでしょう」


「企画書を死者が読むと思う?」


「生者もほとんど読んでません」


 真紀はヘッドホンを外した。


「固くなったね、蓮」


「仕事ですから」


「二十五歳の顔じゃない」


「何歳の顔ですか」


「慎二が死んだころの私」


 蓮は答えなかった。


 黒瀬慎二が死んで八年がたっていた。


 蓮は、慎二に助けられた高校生だった。


 海へ落ちた蓮を岸壁の梯子まで押し上げ、慎二は溺れた。


 それ以来、蓮は仏ヶ浦で泳いでいない。


 高校を卒業したあと、東京の大学には行かなかった。


 FM浪越でアルバイトを始め、そのまま番組制作をするようになった。


 慎二が残した修理工場にも、ときどき通った。


 エンジンのことは何年たっても分からなかったが、シャッターを開け、埃を払い、古いラジオの電源を入れた。


 誰に頼まれたわけでもない。


 真紀には、何度も言われた。


「あの人の死んだ分まで生きるな」


 そんなことはしていない、と蓮は答えていた。


 だが、自分の人生のどこからが自分のものなのか、よく分からなかった。

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