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FM浪越は、その日の午後八時で放送を終えることになっていた。
開局から三十二年。
市の第三セクターとして始まり、災害情報、商店街の宣伝、高校野球の実況、行方不明になった犬の特徴、道路へ牛が出たという注意喚起などを放送してきた。
広告収入は減り、市の補助金も切られた。
今後は防災無線と市役所の動画配信へ一本化される。
「ラジオがなくなっても、災害はなくならないけどね」
真紀はそう言った。
その本人は、朝から放送席で海を背に座っていた。
五十歳を目前にしても、声だけは午後三時のままだった。
「これは最後の放送じゃありません」
オープニングで真紀は言った。
「明日から電波が出なくなるだけです」
「それを最後と言うんです」
蓮が小声で返した。
マイクは切れていた。
「朝から細かいね」
「最後くらい台本を読んでください」
「台本書いた人がつまらないから」
「私です」
「知ってる」
真紀は笑い、マイクを入れた。
「本日は午後八時まで、仏ヶ浦から十二時間の生放送です。浪越の生者と死者の皆さん、どうぞ最後までお付き合いください」
蓮は慌ててマイクを絞った。
「死者へ呼びかけるのは禁止です」
「誰が決めたの」
「今日の番組の企画書に、自分で書いたでしょう」
「企画書を死者が読むと思う?」
「生者もほとんど読んでません」
真紀はヘッドホンを外した。
「固くなったね、蓮」
「仕事ですから」
「二十五歳の顔じゃない」
「何歳の顔ですか」
「慎二が死んだころの私」
蓮は答えなかった。
黒瀬慎二が死んで八年がたっていた。
蓮は、慎二に助けられた高校生だった。
海へ落ちた蓮を岸壁の梯子まで押し上げ、慎二は溺れた。
それ以来、蓮は仏ヶ浦で泳いでいない。
高校を卒業したあと、東京の大学には行かなかった。
FM浪越でアルバイトを始め、そのまま番組制作をするようになった。
慎二が残した修理工場にも、ときどき通った。
エンジンのことは何年たっても分からなかったが、シャッターを開け、埃を払い、古いラジオの電源を入れた。
誰に頼まれたわけでもない。
真紀には、何度も言われた。
「あの人の死んだ分まで生きるな」
そんなことはしていない、と蓮は答えていた。
だが、自分の人生のどこからが自分のものなのか、よく分からなかった。




