花迎え 8
夕方、果歩と徹は二階で話していた。
結婚するか。
どこに住むか。
誰がいくら稼ぐか。
恋人たちは、子どもができると急に経理担当者になる。
理恵は一人で客室を掃除した。
十三湊が使った部屋は、ほとんど汚れていなかった。
布団を上げ、窓を開けた。
畳の上に、小さな濡れた跡があった。
裸足の足跡だった。
子どものものに見えた。
一つ。
二つ。
三つ。
窓から入り、部屋を横切り、廊下へ続いている。
理恵は足跡を追った。
四つ。
五つ。
六つ。
階段の前に七つ目。
八つ目は、母の部屋の襖の前にあった。
その先には何もなかった。
理恵は襖を開けた。
果歩が、母の布団で眠っていた。
徹は床に座り、壁にもたれて寝ていた。二人の間には、わざとらしいほど距離があった。
果歩の手が腹の上に置かれている。
その手の横に、赤い糸のついた二枚貝があった。
片割れではなかった。
二枚がぴたりと合わさっていた。
理恵は、片方が母の裁縫箱にあることを知っていた。
確かめには行かなかった。
窓の外では、海が暗くなり始めていた。
浪越では、人は海から来て、海へ帰るという。
理恵はその話を信じていなかった。
信じてはいなかったが、足跡をすぐには拭かなかった。
客が来るまでには乾くだろうと思った。
春は濡れた足で宿へ上がり込み、何の断りもなく、家族を一人増やした。




