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境界のパスティーシュ  作者: 島流しパプリカ
ハルシネイト Ⅰ

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花迎え 7

 病院では、出血は大きな問題ではないと言われた。


 小さな画面に、白い粒のようなものが映った。


 医師が音を出すと、速い拍動が診察室に響いた。


 徹が泣いた。


 果歩は泣かなかった。


 理恵も泣かなかった。


 三人とも、何を感じれば正しいのか分からない顔で、画面を見た。


 帰りの車で、果歩が言った。


「産みたい」


 理恵は前を見たまま訊いた。


「どうして」


「分かんない」


「分かんないで産むの」


「分かるまで待ってたら、いなくなるでしょ」


 徹は後部座席で黙っていた。


「後悔するかもしれないよ」


 理恵は言った。


「すると思う」


「学校も、仕事も、徹くんも、全部嫌になるかもしれない」


「なると思う」


「この子のせいだって思うかもしれない」


 果歩は窓の外を見た。


「思ったら、思ったって言う」


 理恵は娘を見た。


「子どもに?」


「母さんに」


「私が生きてるとは限らないよ」


「じゃあ、死んでも聞いて」


 理恵は笑った。


「死んだ人は何もできないんじゃなかったの」


「聞くくらいできるでしょ」


 宿へ戻ると、鴨田と十三湊はもう発つ支度をしていた。


 鴨田は石碑の拓本を筒へ入れていた。


「何か分かりましたか」


 理恵が訊いた。


「仏の下に、別の文字があります」


「何という字です」


「断定はできません」


「だから客商売に向かないんですよ」


 鴨田は困ったように笑った。


 十三湊は果歩の腹を見た。


「いました?」


「いました」


 果歩が答えた。


「そう」


 それだけ言って、女は銀色のケースを持ち上げた。


 玄関を出る前に、理恵へ小さな赤い球を渡した。


 昨日の手品に使ったものだった。


「忘れ物ですか」


「預けます」


「何のために」


「増えたら、教えてください」


 女は宿を出た。


 鴨田が後を追った。


 二人は海岸沿いの道を歩いていった。並んでいるのに、それぞれ別の場所へ向かっているように見えた。

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