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妻よ、お前は誰の子を産んだんだ――DNA鑑定が暴いた七年間の嘘  作者: ledled


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9/12

サイドストーリー:桧山澪の視点

全てが終わった後、私は実家の自分の部屋で、天井を見ていた。


子供の頃から変わらない天井。シミが一つある。台風の年に雨漏りした跡だ。何十年も前のことなのに、消えないまま残っている。


離婚が成立した。


桧山澪は、もうその名前じゃなくなった。旧姓に戻った。実家に戻った。颯太も航も、渉が引き取った。


私が選んだことだ。いや、選ぶ余地がなかった。渉は静かだったが、揺らがなかった。どれだけ泣いても、どれだけ懇願しても、彼の目に揺らぎは生まれなかった。


私は、その目を見た時に、もう終わりだと分かった。


七年間の嘘が終わった。


----


颯太を産む前のことを、今でも毎晩考える。


江崎と出会ったのは、渉と婚約した頃だった。江崎は面白い男だった。渉とは全然違う。渉は誠実で、穏やかで、でも刺激が少なかった。江崎は軽くて、ムードがあって、私をその場で笑わせてくれた。


一度だけのつもりだった。本当に、一度だけのつもりだった。


でも、妊娠した。


江崎に話した。「俺には無理だよ」と言われた。それだけだった。謝罪もなかった。心配もしなかった。そこで私は初めて、この男がどういう人間か分かった。


一人で産む自信はなかった。でも、産まないという選択も、できなかった。


渉がいた。プロポーズしてくれた渉が。優しくて、誠実で、私のことを本当に好きでいてくれる渉が。


私は最低な選択をした。


早産だったことにすれば大丈夫、という計算が頭の中にあった。七ヶ月なら通る。渉は気づかない。私を信じている。


その信頼を、私は利用した。


颯太が生まれた夜、渉は泣いていた。「俺の息子だ」と言って、颯太を抱き上げた。その顔を見た瞬間、私の胸の中で何かが割れた。でも、もう引き返せなかった。


七年間、その罪悪感と一緒に生きてきた。


渉がよい父親になるほど、私の中の罪悪感は大きくなった。颯太が「パパだいすき」と言うたびに、喉が締まるような感覚があった。


だから、江崎との関係が始まったのは、逃げたかったからだと思う。罪悪感から。夫婦の会話から。日常の重さから。


最悪だ、と今なら分かる。でもあの頃の私には、その判断力がなかった。


----


渉に全てがバレた日の夜、私は浴室で一人になって、長い時間泣いた。颯太と航の声が聞こえる中で、どうすればいいのか全く分からなかった。


渉の「お前は俺にとって、汚嫁だ」という言葉は、今でも耳に残っている。


あの言葉は正しかった。私はそういう人間だった。渉を騙して、颯太を托卵して、それでまた別の男と関係を持って。どう言い訳しても、正当化できるものは一つもない。


江崎に連絡しようとしたことがある。でも、渉の弁護士から書面が届いた直後に江崎から「もう連絡するな」というMINEが来た。既読をつけた後、私はスマホをベッドに投げた。


追いかける気力もなかった。江崎がどういう男か、最初から分かっていたじゃないか。


颯太と航に会えない日が、こんなに辛いものだとは思わなかった。


離婚が成立してから、渉は約束通り、月に一度、子供たちに会わせてくれる。その日だけが私の楽しみになっている。颯太は私を見ると「ママ!」と走ってくる。それがたまらなく嬉しくて、同時に苦しい。


「ママ、どこ住んでるの?」と颯太に聞かれた。「おばあちゃんのおうち」と答えたら、「さみしい?」と聞いてきた。


五歳の子に、そんなことを心配させた。


私は「大丈夫だよ」と笑った。笑うしかなかった。


----


佳奈とは、もうほとんど連絡を取っていない。


渉に「向こうが気づかなければ」という言葉を突きつけられた後、佳奈から謝りのMINEが来た。でも、私は返せなかった。


佳奈が悪いわけじゃない。あの頃の私が弱くて、佳奈の言葉に乗ってしまっただけだ。でも、もう以前のように付き合える気がしなかった。


今の私には、誰かと一緒にいる資格があるのかさえ、分からない。


渉は強かった。あんなことをされても、颯太を捨てなかった。血がつながっていない子供を、自分の息子として引き取ることを選んだ。


私には、そういう強さはなかった。


渉が怒りをぶつけてこなかったのは、今も不思議だ。あれほどのことをされたのに、渉は最後まで怒鳴らなかった。ただ冷静に、静かに、全部を処理した。


その静けさの方が、怒鳴られるより何倍も怖かった。


私は何を失ったのか。


今になってようやく、その全体像が見えてきた。


渉との生活。颯太の朝の声。航のふにゃふにゃした笑顔。毎日の小さな当たり前。それら全部が、私が自分の手で崩した。


もう戻らない。


それだけは確かだ。だから私は今夜も、子供の頃から変わらない天井のシミを見ながら、取り返しのつかないことをしてしまった人間の重さを、一人で抱えている。


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