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妻よ、お前は誰の子を産んだんだ――DNA鑑定が暴いた七年間の嘘  作者: ledled


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サイドストーリー:中村佳奈の視点

あの言葉を、渉さんに言われる日が来るとは思っていなかった。


「澪のSNSの古い投稿に、あなたのコメントがありました。『向こうが気づかなければ』という言葉。覚えていますか」


カフェのテーブルを挟んで向かい合った渉さんの目は、静かだった。怒っているわけでも、責め立てているわけでもない。ただ、事実を確認している目だった。


それが怖かった。


怒鳴られた方が、まだよかったかもしれない。怒鳴られたら言い返せる。でも、あの静かな目で見られると、言い返す言葉が出てこない。


「それは……昔の話で——」


そう言いかけた自分が、惨めだった。昔の話で何だ。昔の話だから許されるのか。


----


あの頃のことを正直に言えば、私は本気で澪を心配していたわけじゃなかった。


澪が「結婚前に大変なことになった」と相談してきた時、私は深く考えなかった。「どうしようもなくなったら、なんとかなるよ。向こうが気づかなければ」という言葉は、軽い気持ちで言った。


「向こう」が渉さんだとは、当然分かっていた。でも、その言葉がどれだけの重さを持つか、あの頃の私には分かっていなかった。いや、分かろうとしていなかった。


澪が困っていた。何とかしてあげたかった。そのための言葉として、出てきただけだった。


今になって考えると、あれは最低な言葉だ。誰かを騙すことを、「バレなければいい」という感覚で後押しした。渉さんの人生に対して、完全に無責任だった。


----


渉さんがカフェを出ていった後、私はしばらく座っていた。


コーヒーが冷めていた。飲む気にもなれなかった。


あの人は全部知っていた。私が澪に何を言ったか。澪が何をしたか。そして、その結果がどうなったか。全部知った上で、私を「証人」として呼んだわけじゃなく、ただ「知っていますね」と確認しに来ただけだった。


それが、どれほど重いことか。


私は澪に連絡を取った。「渉さんと話した。ごめん」とMINEを送った。


返信はすぐに来なかった。翌日、「私こそごめん」という短いメッセージが届いた。


それ以来、澪とはほとんど話していない。


以前のように話せる気がしない。話すたびに、あの頃のことが出てくる。あの軽い一言が、七年越しに全てを壊した、という事実が。


----


渉さんが颯太ちゃんと航ちゃんを引き取った、と聞いた時、正直驚いた。


颯太ちゃんは血がつながっていない。それでも引き取ることを選んだ。


私には、そういうことができるか分からない。あんな目に遭って、それでも子供を手放さない。その強さが、私には理解できないほど大きかった。


渉さんは、私が言った「向こうが気づかなければ」という言葉を、証拠として持っていた。それを突きつけることもできたはずだ。でも、弁護士を通じての話し合いに持ち込むだけで、私には何もしてこなかった。


それが余計に、こたえた。


私がしたことは、言い訳できない。あの頃の「軽さ」が、取り返しのつかない結果を生んだ。それは事実だ。


今の私にできることは、せめてあの軽さを繰り返さないこと。誰かに「バレなければいい」という言葉を言わないこと。それだけだ。


地味で小さなことだが、今の私にはそれしかない。


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