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妻よ、お前は誰の子を産んだんだ――DNA鑑定が暴いた七年間の嘘  作者: ledled


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サイドストーリー:田中弁護士の視点

離婚案件を二十年以上担当してきた。


数え切れないほどの夫婦の終わりを、書類の上で処理してきた。怒鳴り合いも見た。土下座も見た。慰謝料の交渉で感情が爆発する場面も、珍しくなかった。


だから、桧山渉という依頼人は、最初から異質だった。


初めて相談に来た時、彼は静かだった。怒っていなかった。泣いてもいなかった。ただ、必要な情報を整理して、順番に話してくれた。


浮気の証拠。SNSの過去投稿。DNA鑑定の結果。江崎への書面。


全部、自分で動いていた。探偵も使わず、感情に任せた行動もせず、証拠を積み上げてから私のところへ来た。


二十年でも、こういう依頼人は多くない。


「親権についてはどうお考えですか」と聞いた時、彼は迷わなかった。


「颯太と航、両方を引き取ります」


颯太くんは血がつながっていない。それを知った上で、引き取ると言った。


私は念のため確認した。「ご理解の上で、引き取りを希望されますか」と。


「はい」


その一言だった。


----


澪さん側の弁護士とのやり取りは、比較的スムーズだった。渉さんが感情的にならないので、こちらも淡々と進められた。


途中で、澪さんの友人という女性が渉さんに直接会いに行ったと聞いた。渉さんはカフェで会い、「SNSの投稿について確認した」と私に報告してきた。


「向こうが気づかなければ、という言葉を確認した。記録に残してください」


記録に残してください。


証拠として積み上げる意図があるのか聞くと、「いや、ただ記録として」と言った。それを使って何か追加の請求をするつもりはない、ということだった。


この人は、怒りを武器にする気がないのだ、と分かった。


----


離婚が成立した日、渉さんは事務所を出る前に「ありがとうございました」と言って頭を下げた。


私も多くの案件で「ありがとう」を言われてきたが、あの言葉は少し違った。感謝の重さが、違った。


あの人は、七年分の嘘を抱えて、それでも子供を手放さなかった。怒りを制御して、感情的な言葉を一つも使わずに、全てを法的に処理した。


弁護士として言えることじゃないかもしれないが、この仕事をしていてよかったと思える依頼人に、時々出会う。


渉さんは、その一人だった。


あの子たちが、渉さんと一緒に育っていくなら、きっと大丈夫だ。


根拠はないが、そう確信している。


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