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妻よ、お前は誰の子を産んだんだ――DNA鑑定が暴いた七年間の嘘  作者: ledled


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サイドストーリー:桧山恵子の視点

颯太ちゃんが生まれた日、渉は電話で泣いていた。


「母さん、生まれた。男の子だ」


その声が、今でも耳に残っている。あの子が泣いたのは、小学校の入学式以来だったと思う。うちの渉は昔から泣かない子だったから、電話越しに泣いている声を聞いて、私まで泣いてしまった。


颯太ちゃんは、本当に可愛い子だった。会いに行くたびに「おばあちゃん!」と走ってきた。笑顔が渉に似ていると思っていた。親子だもの、そりゃ似るわよね。そう思っていた。


今は、それが違うと知っている。


----


渉から話を聞いた日、私は台所でお茶を入れていた。渉が実家に来るのは久しぶりで、「話がある」と言っていたから、何かあったのだとは思っていた。離婚することは薄々感じていた。でも、颯太ちゃんの件は、予想していなかった。


渉は順番に話してくれた。浮気のこと。DNA鑑定のこと。颯太ちゃんのこと。


私は、途中で何も言えなくなった。


颯太ちゃんが渉の子じゃない。澪さんが、別の男の子を、渉の子として産んだ。


頭では分かった。でも、受け入れるのに時間がかかった。


颯太ちゃんのあの笑顔が、浮かんでくる。「おばあちゃんのご飯、おいしい!」と言って、おかわりを三杯した日のことを思い出す。渉に抱っこされて、二人で昼寝している写真。あれは全部、本物の時間だった。


血が違う、という事実が、あの時間を嘘にするのか。


私には、できなかった。颯太ちゃんを、孫じゃないとは思えなかった。


「渉、あなたはどうしたいの」と聞いた時、渉が「颯太も航も、引き取る」と言った。


私は少し驚いた。渉がそういう選択をする人間だとは分かっていたが、改めて聞くと、胸が詰まった。


「颯太ちゃんのこと、これからも父親でいるつもり?」

「そのつもりだ」


渉の目が、まっすぐだった。迷っていなかった。


「なら、それが答えよ」


私が言える言葉は、それだけだった。説教も、慰めも、いらなかった。渉はすでに決めていた。私の役割は、それを受け止めることだけだった。


----


「颯太ちゃん、渉に懐いてたもんね。昔から。あの子の目が、本物だもの」


口から出た言葉だったが、言いながら自分でも正しいと思った。


子供の目は、本物だ。嘘をつかない。颯太ちゃんが渉を見る目は、安心している目だった。信頼している目だった。それは七年間で積み上げてきた、本物の信頼だ。血がどうであれ、それは消えない。


澪さんのことは、正直、許せない気持ちがある。渉を騙したこと。颯太ちゃんを利用したこと。全てが許せるかと言えば、そうじゃない。


でも、今の私には、怒りをぶつける場所もない。澪さんはもういない。颯太ちゃんは渉と暮らしている。私にできることは、週に一度、渉の家に行って、煮物を作って帰ることだけだ。


「ちゃんと食べてる?」

「食べてる」

「嘘ばっかり」


この会話を毎週繰り返す。渉は笑わないが、少しだけ目が和らぐ。それで十分だ。


颯太ちゃんが「おばあちゃん!」と走ってくる日が、また来ている。


あの子は私の孫だ。血がどうであれ、それは変わらない。渉が父親でいることを選んだように、私も祖母でいることを選ぶ。


それだけのことだ。


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