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妻よ、お前は誰の子を産んだんだ――DNA鑑定が暴いた七年間の嘘  作者: ledled


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エピローグ

あれから十年が経った。


颯太は中学二年生になった。航は小学四年生だ。


俺は四十四歳になって、同じ会社で主任に昇格した。現場を離れて管理側になることも勧められたが、断った。俺は現場が好きだ。コンクリートと鉄骨が形になっていく場所にいたい。


今の生活は、十年前と比べれば、ずいぶん落ち着いた。颯太は自分のことが自分でできるようになって、朝は俺より早く起きる。航は甘えん坊のまま育ったが、それはそれで可愛い。


夕飯は三人で食べる。週に一度は、俺が煮魚を作る。颯太は「また煮魚か」と言いながら全部食べる。航は「おいしい!」と言いながら二杯おかわりする。


これが、俺の人生だ。


----


澪のことは、今でも年に何度か話に出る。


颯太と航が澪に会うのは、月に一度から年に数回に変わった。颯太が「自分で決めたい」と言い出したのが中学になってからで、俺はそれを尊重した。澪との関係を俺が制限したことはない。子供たちが自分で選んだ距離感で、会えばいいと思っていた。


澪は再婚したと聞いた。子供のいない男性と、三年前に。


黒瀬経由で聞いた話だから、確かかどうかは分からない。でも、俺には関係のないことだ。澪がどう生きるかは、澪の問題だ。


江崎のことは、強制認知の手続きが通って、颯太の戸籍に記録が残った。それ以上のことはしていない。江崎が颯太に会いに来たことも、接触してきたこともない。颯太も江崎のことを知らない。いつか話す時が来るかもしれないが、それは颯太が自分で知りたいと思った時でいい。


江崎は今どこで何をしているか、知らない。知る必要もない。


ただ、先月、黒瀬から「江崎って奴、またどこかで同じことやって問題になってるらしい」という話を聞いた。


俺は「そうか」とだけ言った。


驚かなかった。ああいう男は、変わらない。変わることができない。それが、本人にとっての地獄なんだと思う。


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颯太が中学一年の頃、一度だけ「自分のこと」について真剣に聞いてきた。


「パパ、俺って……ほんとにパパの子なの?」


突然の質問だった。どこかで何かを聞いたのかもしれない。俺は夕飯の片付けの手を止めて、颯太を見た。


颯太は真剣な目をしていた。怖がっている目ではなかった。ただ、知りたい、という目だった。


俺はしばらく考えた。


「血はつながってない」


正直に言った。


颯太の顔が、少し固まった。


「でも」と俺は続けた。「俺はずっとお前の父親だ。それは変わらない」


颯太はしばらく黙っていた。航が「何の話?」と横から口を挟んできた。


「大人の話だ」と颯太が言った。


その夜、颯太は自分の部屋に早めに入った。翌朝、いつも通りに起きてきて、「パパ、弁当ありがとう」と言った。


それ以来、この話は出ていない。


颯太の中で、何かが決着したんだと思う。どんな決着をつけたかは、颯太が話してくれるまで待つ。


----


先日、現場の帰り道に、久しぶりに缶コーヒーを買った。


駅の近くの自動販売機。十年前と変わらない位置にある。俺がまだ若かった頃、現場帰りに毎日立ち寄っていた場所だ。


コーヒーを一口飲みながら、少しだけ考えた。


あの頃、俺が守ろうとしていたものは何だったのか。


家族。家庭。信頼。そういうものだったと思う。全部、失ったと思った時期もあった。でも今になって分かる。俺が守ろうとしていたものは、全部形を変えて、今も俺の手の中にある。


家族の形は変わった。でも、颯太と航がいる。母親の恵子がいる。黒瀬がいる。


それで十分だ。


缶コーヒーを飲み終えて、駅に向かった。


今夜は颯太が好きな唐揚げを作ろう、と思いながら。


颯太は「また唐揚げ?」と言うだろう。でも、全部食べる。航は「いちばん好き!」と言って箸を止めない。


それが俺の夜だ。


壊れかけた日々の先に、こういう夜がある。


それを知ったのは、全部終わった後だった。


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