54話 美しい戦の終わらせ方
目を閉じると、
どこか遠くで“雨の音”が“拍手”のように聞こえた。
それが現実なのか、ピノの声なのか、
オレにはもう分からなかった。
――ただ、確かに誰かが言っていた。
『まだ終わってないよ、ヒメジマちゃん。』
終わってるんだよ。
オレの部隊。
魔法で空を飛べる部隊だけなら
撤退は可能だろう。
しかし、全軍撤退は無理だ。
彼らを見捨ててオレだけ逃げる訳には
いかない。
雨は止むことを知らず延々と降っていた。
オレは雨が嫌いだ。
雨の持つ本当の冷たさを
オレの元居た世界の人間大半は知らないだろう。
雨だろうが雪だろうが戦闘訓練は
関係なく行われる。
雨に打たれながら陣地である掩体を掘り
敵がくるまでただ待ち続ける。
そういや、今だって
先輩のやってることは変わらないかもな。
演習の事を思いだす。
雨の明けた演習場。
山中での防御訓練。
そういや雨で濡れた戦闘服を
着替える着替えにないで
先輩とよく言い合いになったな。
「おい、ヒメジマ、
ちゃんと戦闘服を着替えておけ!!!
風邪をひいたら戦闘にならんだろうが」
雨の中高機動車のなかで
先輩がオレに指摘する。
「いいんですよ!!!
そんな事で戦闘できない奴は
普通科にはいりません!!!」
「実際戦闘になったら
いつでも着替えられる訳じゃないでしょ?
普通科なんて濡れたままでなんぼなんですよ」
オレはそれっぽい理由をつけて
断固として拒否していた。
実際は演習終わりに
泥まみれの服は洗うのに時間がかかる為
それが増えるのを回避したかっただけだ。
せっかく着替えたとしても
雨の後で水没した掩体に
入る事になるので
またビショ濡れになるだけだろう。
全く、小さな事でガミガミガミガミと
昔からうるさいんだよ。
そうだ……
オレはハッと気づいた。
水没した掩体を
思い浮かべる。
穴は水に弱いんだった。
魔王が構築した地下要塞は
当然の排水は考えてあるだろうが
規格外の水量には耐えられない
はずだ。
オレは半身を持ちあげて
目の前の増水した川を見る。
オレは手を上にあげて
アンナ元帥に差し出す。
「アンナ元帥、悪いが立たせてくれ。
片腕じゃ上手く立てなくってね」
「何か妙案が?」
アンナ元帥がオレに問いかける。
「ああ、最高の策を今思いついた。」
オレは二カリと笑った。
アンナ元帥は安心したように頷くと
オレの手を引き上げる。
「……終わりにしよう。」
雨が頬を叩いた。
それがまるで、かつての仲間たちの手のように思えた。
「先輩、あんたの美しい戦を、俺が汚して終わらせる。」
それは今まで魔王の戦略を打ち破った事のないオレからの
静かな宣戦布告だった。
▼
雨は止むことなく続いていた。
雨音は強まるばかりだった。
作戦を聞いたアンナ元帥達は驚愕する。
「なるほど
お話はわかりました。
この川を工事して堤防を作り
その水を一気に流し込むと」
「しかし……」
アンナ元帥は氾濫する川を
横目にみる。
「今のこの川から
水を引く工事は
どれだけ犠牲者が出るか
分かりませんよ?」
「正気の沙汰ではない」
皆がおじけづくのを感じていた。
オレはコクリと頷く。
「分かっている。」
「魔王は強敵だ。
生半可な戦略や戦術は無意味だ。
崩すことはできない」
「だが、それらは
この地下要塞を
オレ達が攻略できない事を
前提に組まれている」
「この作戦が成功する
根拠は?」
アンナ元帥が問う。
「根拠はない。
全てはオレの直感だ」
雨音はさらに強まる
だからオレはその音に負けないように
声を張り上げる。
「出来る理由、出来ない理由
山ほどある!!!!
だけどな、オレはこの直感で
生き延びてきた!!!!」
「オレは自分の直感と心中できる!!!」
これは理性的な説得ではない。
ただの感情論かもしれない。
人の命を懸けさせるには何とも
間抜けな理由だ。
それでも…!!!!!
「見ての通りオレはもう片腕で
一人の力では立ち上がるの一苦労だ
だから、お前達の力が必要だ!!!」
「オレを信じてくれ!!!!
お前達一人一人がオレの片腕に
なってくれ!!!!!」
「頼む!!!!」
オレは頭を下げる。
「やろう……!!!!
国王様!!!」
一人が声を上げた。
それを皮切りに次々に声を
上げた。
「そうだ!!!
どの道、逃げ場がねえんだ
だったらオレ達は
国王様に乗るぜ!!!」
国王軍が鬨の声が
上がった。
オレはアンナ元帥を見つめる。
アンナ元帥は少しためらった後に
拳を握る。
アンナが力強く頷く。
「やりましょう!!!!」
「よし、お前ら
取り掛かるぞ!!!!!」
数日の夜と昼を繰り返し、王国の工兵たちが堤防築造に取り掛かった。
泥を運び、土嚢を積み、鉄板を打ち込む。仮堰は夜ごとに高くなり、
手は決して休まなかった。
魔王軍の偵察部隊は
氾濫する川の中
作業する王国軍を
茫然と見つめていた。
川に流される者がいる。だが、泥だらけの手は止まらない。
魔王軍の偵察は、静かに息を呑むしかなかった。
地下要塞を水没させる
という意図があまりにも馬鹿らしすぎて。
理解できなかったのである。
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