53話 戦略の美
「問題なのはこの戦況を
どう変えるかだな」
天幕内でアンナ元帥と
協議を進める。
ユリシアが前線に
出てくるまでに
出来れば状況を
良くしておかなければならない。
「川べりの防御陣地は
攻略したが未だに
魔王軍は主力を隠している。」
アンナ元帥が続ける。
「川の向う岸の地点の
拠点制圧はまだ終わっていません。
拠点を制圧しないまま進めば
軍の後背を突かれる上
補給線をたたれます」
「拠点制圧っていてもな……」
「あの地下拠点をどうやって
攻略するんだよ」
穴。
川岸の向うにあったのは
魔王軍の大規模な地下要塞だった。
入口は巧妙に隠されており
偵察で出していた兵士達を
次々と分断して葬っていた。
ゲリラ戦のやり口だ。
その上で未だに魔王は
現在の魔王軍の数を隠している。
「数に任せて地下拠点を
制圧するという事も出来ますが…」
「やめておこう。
割りにあわない」
オレは知っている。
近代戦闘において
地下要塞を兵力の力押しで
完全制圧した事例はない。
それは米軍とて
同じ事だ。
もし、無理やり攻略しようとすれば
長期戦になる上に
尋常ではない被害が出る事になる。
そうなれば厭戦気分が蔓延し
この遠征軍は持たないだろう。
地下要塞はドイツの様に
回避するか
その施設の放棄を敵軍に
促すかがベストなのだ。
「まともにやり合うべきではないが
どうしたものかな」
その時、伝令の足音が聞こえた。
足音が乱れている。
嫌な予感がした。
息を切らせながら伝令が幕間に入ってきた。
「陛下!!!
ジグムントが現れました!!
ジグムントは橋を破壊!!!
我々の補給線をたたれました!!」
「なんだと!!!!」
皆殺しのジグムント。
魔王軍の最高戦力だ。
「あんのジジイ……!!!!!」
オレは奥歯を噛みしめる。
元からあった橋は魔王軍が
破壊していた為。
工兵たちに急場の橋を
いくつか建てさせていた。
補給線はその橋頼りだったのだ。
アンナ元帥も驚愕した顔していた。
「陛下、撤退を。
殿は私が引き受けます。」
アンナ元帥は即座に判断を下す。
流石だ。
今オレは二つの選択肢を
迫られていた。
後背を取られるの覚悟で
渡河をしながらの
絶望的な撤退か。
それとも損耗覚悟で
どれだけの規模かも分からない
地下要塞を攻略するか
たちの悪い強制2択である。
判断を迷い決断できず
このまま留まれば
補給線をたたれた軍は
壊滅だろう。
「近くにいるんだな…
先輩……」
勝ったと思ったら
手のひらの上で転がされている感覚。
オレは
もう何度も味わっている
魔王の息遣いを感じていた。
「……ユリシアが、こっちに来るというのに。」
天幕の外で風が鳴き
嘆きを覆い隠す様に雨が降っていた。
今の状況は最悪だった。
前方は地下要塞。
後方は大河川。
魔王軍は神出鬼没で
いつ襲われるか分からない
心理的な圧迫を加えられていた。
「このままじゃ、会う前に終わっちまうな……」
それならせめて安全な場所で。
「アンナ元帥、撤退だ。
ここを放棄する」
「賢明です。急ぎましょう」
しかし、その判断は誤りだった。
「…………」
軍に静寂が流れていた。
オレ達は川辺を目の当たりにしている。
タナトス川は増水し
とてもではないが
渡れる状態ではなかった。
「嵌められた……」
オレは歯噛みした。
横にいたアンナ元帥が答える。
「今は雨季の上
ここは暴れ川として
有名ですから
仕方ありませんね……」
「天に見放されましたかね…」
違う、そうじゃない。
このタイミングで橋を落とし
オレ達が今渡河できないのは
天に見放されたからじゃない。
魔王軍は
この川が氾濫するまで
待っていたのだ。
オレは上を見上げる。
この空模様と匂い。
恐らく数日間は降り続く。
それは、長年自衛官として
野営陣地で訓練して
培ってきたものだ。
だから先輩もそれは
分かる。
天候を読んでオレ達を
この状況に追い込んだ。
だって、橋を壊すだけなら
いつでも壊せたはずなんだから。
「ハハハハハハハハ
ハハハハハ
完璧だ。完璧だよ先輩!!!」
オレは狂った様に
笑いながら
その場に仰向けに寝転ぶ。
部下たちが心配そうに
見ているが
関係なかった。
やってられるか
バカ野郎………!!!!
川岸の陣地を
攻略した時に
オレはこの状況を思っても
見なかった。
そして魔王軍の戦略の
全ての点と線が
繋がった時
魔王のあまりの
戦略性と戦術性の
美しさに驚愕する。
残る選択肢は一つだけ
犠牲を覚悟で
地下要塞を攻略する。
死地に飛び込むようなものだ。
勝機は微塵も見いだせなかった。
オレの負けだよ。
先輩。
空は答えない
黒々曇りただ雨を降らせていた。
『本当にそれでいいの…?
ヒメジマちゃん?』
ピノが静かに耳元で囁いた。
読んでいただいてありがとうございます!
リアクション、レビュー、感想、5☆評価、ブックマークよろしくお願いします!




