表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

52話 王妃、出立す!!

──王都。


鐘の音が、夜明けの空に広がっていた。

それはいつもなら祝福を告げる音。

だが今は、どこか遠く、

胸の奥を締めつけるような響きに聞こえた。


城下の人々は歓声を上げていた。

「勝ったぞ!」

「陛下が敵将を討たれた!」

老いも若きも手を取り合い、涙を流して喜んでいた。


だが、ユリシアの耳には――何も届かなかった。



「ユリシア様、陛下より勝利の報が……!」


「……」


ユリシアは唇を噛んだ。



勝利のはずなのに、涙がこぼれた。

誰にも見られぬよう、窓辺に身を寄せ、

外の光を見つめる。


「……浮かない対応だね?」


ユリシアに声をかけたのはトガリだった。


ザムザがこの世界から離れるの止めたい

ユリシアはトガリを呼び寄せて

話を聞き対策を取ろうとしていた。


トガリの真相をザムザから聞いていた為だ。


「ザムザがこのまま、遠くに行ってしまう

かもしれないのだ。

素直には喜べん」


トガリはやれやれと言った様に

両手を上げた。


「フレイヤの話から推測すると

ザムザが勝ったら元の人格に戻るだけだろう。

君の王妃の地位が変わる訳じゃない」


ズカズカとユリシアはトガリの前に行くと

その頭はひっぱたく。


「ワタシはザムザの人格を愛しているのだ!!!

それでは意味がないのだ!!!

地位などいらん!!!」


トガリは頭を押さえながらごめんと

呟いた。



「まあ、気持ちは分からないでもない。

あの人見てるとなんか気が強くなるんだよね。

あの人の気質なんだろうなぁ」


トガリは少しだけ何かを思いだしていた。


「今の現状を見ていると

ワーグナーのニーベルングの指環を

思いだすなぁ」


「なんだそれは?」


「元居た世界の戯曲だよ。

黄金の指輪を手に入れた

英雄ジークフリートは

神々も人も平伏させる力を手に入れる」



「けど、その代償に

愛は絶対に手に入らない」


「世界を渡る宿命を持った

ヒメジマさんは今その状態

かもね」


そうかもな、とユリシアは

天井を仰いだ。


「その物語の結末はどうなる?」


「ジークフリートも死に

その英雄を愛した女性も自殺した。

切ない悲恋に終わるんだよ」


その言葉を聞き。

ユリシアはプルプルと震えている。


トガリはまた余計な事を言って

しまったと内心でヒヤヒヤしていた。


「ザムザの元に行く!!!!

終わりまで添い遂げる!!!」


ユリシアが突然立ち上がり宣言する。


「え、い、いや、

王国はいいの?」



「知った事か!!

ワタシの愛に国の事情を持ち込むな!!」



ユリシアはそそくさと準備をし始める。


その姿を見ながらトガリは考えていた。


ユリシアは元々は典型的な

悪役令嬢として作ったはずだった。


地位とか名誉とかしか興味のないような。


それがここまで変わるとは…


「愛って尊いんだな…」


ユリシアの今の姿をみて

トガリが微笑ましく笑った。



本陣の天幕の中は、勝利の報せを祝う声も届かぬほど静まり返っていた。

灯された炎が、オレの頬を赤く照らしている。


左腕の包帯は、血を吸い黒く染まっていた。

座ったまま動かず、

アンナ元帥と共に地図の上に指を滑らせていた。


そこへ、幕の外から足音。

伝令のものだ。


「……どうした?」


「へ、陛下……」


伝令は一歩、ためらうように近づく。

その顔には、戦場の疲労ではない種類の影があった。


「何だ。言え。」


伝令は口を開きかけて、息を呑んだ。

一瞬だけ、目を伏せる。



「……王妃ユリシア様が、王都を出立されました。」


「はあぁあああああ?どこに向かったんだよ!?」


オレはガラガラと自分の戦略構想が

崩れていく音を感じていた。


どうすんだよ!!?


この遠征はユリシアが王都にいるから

万が一自分が死んでも大丈夫だという

前提で行われていた。



「この前線へ――陛下のもとへ向かわれたとのことです。」


ザムザの喉が音を立てて動く。

声にならない息だけが漏れた。


「護衛は。」


「最小限です。止めようとした兵士もいましたが……

“王としてではなく、夫としてあなたに会いたい”と仰せでした。」


誰か止めろよとという言葉が口からでかけたが

ユリシアが本気で動いた場合、彼女を止める事のできる人物は

オレも含めていない事に気が付いた。



オレは何も言えなかった。


「ぷっ……くくくくっはははははは」


意外な事にアンナ元帥が

隣りで耐え切れなくなったように

笑っていた。


「な、なんだよ

何が可笑しいんだよ?」


少しむっとしながら

アンナ元帥に言い返す。


「いや、いつも我々の進言を聞かない陛下が

ユリシア様に振り回される姿が可笑しくて

つい、失礼いたしました。」


「意外だな?怒るかと思っていた」


「軍を預かる元帥としては

無論、軽率な行動を咎めるべきでしょう」



「ですが、一人の女としては

私はユリシア様を支持いたします」


へえ……

オレはアンナ元帥の意外な一面を

見た気がした。


もっとこう堅物なだけかと思っていた。


「全てを捨てて愛する夫の元へと向かう。

よくやったと褒めたい気分ですよ。」


「私はそれを選べませんでしたから

羨ましい限りですね」


そうか……

オレを守って死んだ

アンナ元帥の旦那コンラッドを

思いだしていた。



「陛下、アナタは間違いなく愛されています

個人として申し上げます。

受け入れてあげてください」


「……」


オレはユリシアに会いたいという

気持ちがおさえられなくなっていた。


しかし、戦況を考えれば。



危険な事には変わりなかった。



オレは包帯越しの左腕を見つめた。

失ったものの重さを知りながらも、

それでも


――今だけは、会いに行きたいと思った。

読んでいただいてありがとうございます!

リアクション、レビュー、感想、5☆評価、ブックマークよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただいてありがとうございます! 良ければリアクション、ブックマーク、星5評価、レビューをお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ