48話 敗北の帳
夜、宿営地域では
先日のような
喧騒はなかった。
かがり火をたく事もなく
静まりかえっている。
多くの兵士が心を折られて
しまった。
人間は物事を
自分にとって都合よく
考える。
しかし、その幻想を
打ち砕かれたときに
大抵の人間はもう一度
立ち上がろうとはしない。
オレは司令部のあるテントに
入った。
首脳陣は皆、沈痛な面持ちだ。
「今日の被害を」
アンナ元帥が答える。
「戦死者は今集計を
取っていますが
とても1日で数え切れるものではなく
少なくとも5万は……」
この短時間で
確認できているのが5万であれば
その倍は行くだろう。
「それ以上に深刻なのは
逃亡兵が後たちません」
「……勝利の目標を
人類圏の奪還に定めたのはオレの失敗だった。
オレの責任だ。」
どうやれば勝ちなのか。
それは兵士達が多ければ多いを程
死活問題になる。
それでいて誰でも理解できる程
簡単なものでなければならない。
そして、その認識は簡単に
変えられるものではない
個人レベルではできたとしても
大軍レベルでは難しいのだ。
勝てないと悟り逃亡兵が出るのは
無理もない状況だった。
「逃亡兵はほっとけ
戦いたくないものに
無理に戦わせても邪魔なるだけだ」
生憎だがこの数の兵を少しずつ
戦場の経験値を積ませていく
なんて悠長な事をやっている暇はなかった。
「……かしこました。」
アンナ元帥は何か言いたそうだったが
その言葉を噛み殺しているかのようだった。
「偵察部隊を出し
魔王軍の河川陣地に弱点がないか探る」
「情報がなければ
あの陣地は力押しでは
落とせないだろう」
「しばらくは
にらみ合いだ」
会議が終わり首脳陣が
天幕を後にする。
オレはユリシアの事を考えていた。
王都にいる際にはオレが手詰まった時
必ずと言っていい程有益な情報を
持ってきてくれた。
それで状況が打開出来た事が
何度もあった。
今回、ユリシアは戦場に同行していない。
彼女はオレの後継者なので
万が一を考えて残って貰っていた。
今更ながらオレはユリシアに
大きく支えられていたのだと
気が付いた。
オレはユリシアが共にどこかに
逃げようと告げた時の事を
思い出していた。
そして、ユリシアの心が離れるのを
構わずにこの戦争を引き起こした事を
ーーーーー後悔していた。
少しずつ泥沼に
沈んでいくような感覚に陥る。
風が、兵士たちの嘆きを運んでいた。
夜は、それを聞いているふりをしていた。
▼
先日の遭遇戦から数日
両軍とも拮抗状態が続いていた。
天幕の中にアンナ元帥が現れる。
「向こう岸の敵兵以外
魔王軍の姿が見えないだと?」
斥候から情報をアンナ元帥が
オレに伝える。
妙だった。
オレはてっきり
横に長い防衛線を張って
予備部隊を持ってこちらを
壊滅させる腹だと思っていた。
事実として先日の遭遇戦では
空戦部隊を使ってその様な
運用をしてきたはずだ。
陣地防御に使う兵隊以外は
予備部隊を使い
遊撃に回るはずだが
その部隊がどこにも見当たらない。
姿を見せておけば心理的な
圧力を加える事が出来るはずなのに。
「ひょっとしたら魔王軍は
思いの他、数が整っていない
のかもしれませんね」
「魔王軍の数に対する
情報が全くっといって
いい程はいってきませんから」
考え込んでいるオレも
そう決断を下さざるを得ない
状況だった。
現状、こちらの兵力は
逃亡兵も相まって
150万といったところ
数ではこちらが勝っているのは
まず間違いないだろう。
あからさまに決戦を避け
数を隠しているのはそのためか
「渡河ポイントは
見つかったのか?」
「はい、ここから北東に
川幅が狭くなっている場所が
あります。」
アンナが地図を見せ北東の部分を
ツツツとなぞる。
「ですが、他とは違い
3重に渡り防衛陣地が
築かれている上
僻地の為、投入できる戦力が
限られます」
「オレの部隊が出よう
陣地を厳重に固めているという事は
間違いなく敵の急所だ。
落とせればでかい」
「魔王軍がオレの方に向かえば
他の部分の兵力が少なくなる。
薄くなった部分を見極めて
アンナ元帥が
突破を試みてくれ」
途端にアンナ元帥が顔を
しかめる。
「また、危険な役目を
引き受けるのですか?
あとで、私がユリシアに
怒られるのですよ?」
「そうゆう性分なんだ。
ユリシアにはオレから言っておくよ」
オレは空笑いをする。
勝っても負けてもそんな機会は
もうないかもしれなかった。
オレは部隊を呼び、作戦を伝えた。
作戦日時を夜間に定め。
本格的な攻勢準備を始める。
夜、川のせせらぎと蛙の合唱だけが周囲を満たしていた。
しかし、その合唱は唐突に途切れた。
風が止み、空気が重くなる。
濃厚な死の気配が、ゆっくりとこちらへ近づいていた。
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