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あの夏休みの真相

「は?」

 そこから違う。俺はお姉さんなんて選んでいなかった。

「記憶がないクセにいい加減な事言わないでよ! 大体、選んでないってアンタがお姉さんに桜貝を渡している所を私は見てるのよ!?」

「確かに渡したんだろうな。俺は覚えてないけど。でも、俺は約束の相手じゃない」

「何が言いたいの? アンタじゃなかったら誰だって言うのよ!」

 いい質問ですね篠宮さんと言ってやりたいところだが、その答えを俺はもう言っている。

「お前だよ琴音。言ってるだろ? その桜貝のネックレスはお前のだって。あの時、選ばれたのはお前だったんだよ」

 まだ何を言っているか分かってない様子だ。

「俺がお姉さんに桜貝を渡したのは、琴音―お前と仲直りさせるためなんだよ」

「私と、仲直り?」

「そう仲直り。さっき、お姉さんに近付かなくなったって言っただろ? 俺はそれを見て、二人を仲直りさせようと思って桜貝を渡したんだよ」

「で、でもあれは恋のお呪いでしょ? それに私はアンタから桜貝なんて貰ってないわ」

「それが誤解の原因なんだよ」

 何年も尾を引く事になった誤解の原因。

「俺はそもそも、桜貝のお呪いをその当時―恋のお呪いなんて知らなかったんだよ」

「あ、ありえないでしょ! 女神と男神の恋の物語から出来たお呪いなのよ?」

「その時は知らなかったんだよ。桜貝のお呪いの由来が恋物語だった事を。俺がそれを知ったのは、つい最近なんだよ」

 つい最近。琴音に社会科のレポートを手伝って貰ったあの日に、俺は初めて神社の伝説の話と桜貝のお呪いの話が関係していると知ったのだ。

「でも、普通分かるはずでしょ? 神社の物語は知らなくても『二人はいつまでも一緒にいられる』なんて効果のお呪いが、恋のお呪いだって事くらい」

 流石に今の俺ならそのくらいは分かる。でも当時の俺は―

「分からなかったんだよ。その時の俺は。恋愛感情なんて知らなかったんだから、その考えまで至らなかったんだよ」

「恋愛感情を知らない?」

 そう知らないんだよ。

「その夏休みを過ごしてた小さな俺は、まだ恋なんてしらないお子様だったんだよ」

 琴音を好きだと気付いて、初めて俺は恋愛感情を理解した。

 要は俺の初恋の相手は琴音なのだ。

 その時まで、俺は恋だの愛だの知らなかった。だからその当時の俺は―

「恋愛がどういうものか知らずに『いつまでも一緒にいられる』お呪いを、ただの仲良しになるお呪いだと思っていたんだよ」

 柚葉と詩子がお揃いで着けていた桜貝のブレスレットのように。

 当時の俺は二人が仲良くなるための、お呪いだと俺は思っていた。

「だから小さい俺は、お姉さんから離れて行くお前と、お姉さんに仲良くして欲しくて桜貝を見つけてお姉さんに渡したんだよ」

「そんなの!」

 琴音は興奮して言う。

「そんなの後付でしかないじゃない! 記憶がないアンタが勝手にいい様に解釈してるだけとしか思えないわ!」

 まぁ、そう思うよな。

「それに、私は桜貝を貰ってない! アンタが言う事が本当の事なら、私はアンタから桜貝を貰っているはずでしょ!」

「渡せなかったんだよ。渡す前にお姉さんの存在が消えて俺の記憶が消えたから」

 お姉さんとの記憶が亡くなったせいで、琴音に桜貝を渡さなければいけないという記憶も一緒に一緒に消えたしまった。

 だから俺の部屋の机の引き出しの中には、いつまでも、誰に片割れを渡したかも分からない桜貝があったのだ。

「でも、アンタがお姉さんに桜貝を渡してすぐ消えたわけじゃないのよ? 記憶が消える前に渡せるチャンスが合ったはずじゃない?」

「だから出来なかったんだよ。俺がお姉さんに桜貝を渡したのを見て、お前は怒って俺としばらく口を利いてくれなかっただろ?」

「あっ」

 夏休み終わるまで、終わった後も、琴音は怒って俺と口を利いてくれなくなった。

 そして、琴音に話も出来ず、桜貝を渡せないまま、俺のお姉さんの記憶は消えていった。

「これが夏休みの真相。だから俺は最初からお姉さんの事を好きじゃなかった」

 全員で勘違いして、心配して、苦しんで、悩んでいた。

「真相なんて言ってるけど、記憶が無いアンタが何を言っても、それはただ良い様に辻褄を合わせた事にしかならないじゃない」

 琴音の言うとおりだと思う。俺は真実を知っている訳じゃない。

 本当に俺がお姉さんの事が好きで渡した可能性もある。

 でも、一人だけ、真実を知っている人がいる。

「いや真相だよ。俺はお姉さんからその桜貝が琴音に渡す物だって聞いたんだからな」

「お姉さんから?」

 そうお姉さんだ。唯一あの夏休みの真実を知る人。

「そんな訳ないわ。お姉さんの存在は消えているのよ?」

「この前、一度だけ復活したんだよ」

 俺が記憶を亡くした一週間の間だけ。

「それは鈴音から聞いてるわ。でも、不安定な状態で記憶も無かったって話でしょ?」

「記憶は取り戻したんだよ。その後に」

「何で記憶がないアンタがそんな事を言えるのよ?」

 言えるんだよ。

「俺が復活したお姉さんと過ごしている間に、ずっと俺が持っていた桜貝がネックレスに変わっていた」

「私のためにネックレスを作ったって言いたいの?」

「そうだよ」

 俺が桜貝のネックレスを琴音のために作って貰おうと思ったのは、お姉さんの記憶が戻り俺に真実を教えてくれたからだ。

「それも……結局、アンタの妄想じゃない」

 残念な事に真実を聞いた俺も記憶を亡くしている。

「そんな話を信じられる訳がないでしょ。その話を受け入れたら私はあまりに滑稽過ぎる」

 琴音には悪いが確かに滑稽かもしれない。

 勝手に嫉妬して、不安になって、勘違いして、信じる事が出来ずに自爆した。

「何を言っても平行線みたいだな」

 これ以上は水掛け論だ。

「お前の言うとおり、俺の言ってる事は、妄想と言われても仕方がない。でも一つだけ真実かどうか確かめる方法がある」

「方法?」

「前に鈴音がお姉さんを復活させた方法だよ」

 桜貝の力で、お姉さんを復活させる。

「でも、失敗したんでしょ?」

「そう俺が持っていた時は失敗した。だからお前にそのネックレスを渡したんだよ」

 不安定な存在として現れたのは、桜貝の力が不十分だったから失敗した。

 でも、それは俺が桜貝を持っていたから力を出し切れなかった。

 なぜなら約束の相手が俺ではなく―琴音だったから。

「俺はイマイチどういう原理なのか分からねえけど、その桜貝をお前が持ってお姉さんが復活すればそれは俺が言った事は正しかったって証明になるだろ?」

「確かにそうかもしれないけど……」

 鈴音は桜貝の力は互いの思いの量だと言っていた。お姉さんを復活させるためには琴音にお姉さんに会いたいと思って貰わないといけない。

「なあ琴音、確かに俺の言っている事が妄想に思えるかもしれないけど、もし、本当に俺の言っていた事が正しいとしたら、お前の不安はなくなるはずだろ?」

 俺が桜貝をお姉さんに渡してないのなら、俺の唯一特別はお姉さんじゃない。

 琴音の不安も無くなるはずだ。

「無くならないわ。不安に決まってるでしょ?」

 しかし、琴音は否定する。

「いや、でも―」

「分っからないの!!」

 急に大声を出す琴音。

「分からないの……?」

 今度は小さな声で言う琴音は、肩を震わせていた。

「こと、ね?」

「その証明が成功したとして何になるの? また私に苦しい思いをしろって?」

 成功しても苦しい思いをする?

「別に私は幸一が桜貝をお姉さんに渡した事だけが原因で嫉妬したんじゃない。その前からずっと、ずっとよ? 遊びに行く度にアンタはお姉さんに懐いて、どんどん私から離れていったわ」

「そんなこと―」

「ないって言える? 記憶のないアンタに?」

 先制されて言われてしまう。

「確かにアンタの言う通りかもしれない。でも例え幸一がお姉さんを選んでなかったとしても、私はあの夏休みに、幸一を取られた事は忘れようのない現実になのよ。拭えないのよ! お姉さんへの嫉妬が、許せないのよ私は!」

 ドロリと粘り纏わり付く思いを琴音は吐く。

「さっき言ったわよね? もうあんな思い絶対したくないって。お姉さんを呼び戻すって、幸一は私にまた酷い思いをしろっていうのかしら?」

「違う!」

「幸一が違うって言っても私はそれを信じられない。一番って言われても、特別だって言われても、好きだって言われても、私はそれを心から信じる事が出来ない。そう言ってくれる幸一の隣に私は―今でもお姉さんの影を見てしまうのよ……」

「琴音……」

 俺の想像以上に琴音のお姉さんへのコンプレックスは大きいようだ。

夏休みの誤解が解ければ丸く収まると思っていたが甘かった。

「……俺が何を言っても信じてくれないのは分かったよ」

 ホントに溜息が出るな。

 この幼馴染にはウンザリする。

 ギャルゲーなら一番攻略が簡単そうなポジションのくせに。

 とんでもない闇を抱えていやがる。

「……仕方ない。じゃあ、もう―諦めるよ」

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