鈴音の思い、選んだエンディング
「最初のってまだ他にもバットエンドがあるんですか……」
やるせねえ……。
「でもなんでお姉さんは消えたのに俺の前にまた現れたんですか?」
「それは我がオカ研メンバー鈴音君のおかげだよ」
「鈴音が?」
「鈴音君はひっそり救う計画を練っていた。ただ存在を繋いだだけじゃ琴音君との問題の解決にならない。だから―桜貝の力に頼った」
桜貝、二つを分けて一枚ずつ渡しあった二人はいつまでも繋がっていられる。
「君が渡した桜貝の効果があれば、消えた後でも存在させる事が出来るんじゃないかって」
「出来るんですか?」
「可能ではあると僕も思ってた」
過去形なのは、結果は知っての通りだからだろう。
「でもまた存在が戻せたとして、それって問題の解決になっているんですか?」
ただ存在を消して、戻しても琴音がお姉さんに嫉妬する関係は変わらないハズだ。
「解決になっているよ。君のお姉さんの記憶が消えて、幸一君の気持ちが変わったからね」
「あっ」
そうか、俺がお姉さんを忘れれば、琴音に気持ちが向くと思ったのか。
「幸一君が琴音君の事を好きになれば、琴音君もお姉さんに嫉妬しなくなるって、当時から鈴音君は考えていたんだ」
小学生の時からそんな事を鈴音は考えていたのか。
「幸一君が琴音君の事を好きだと確信した鈴音君は、お姉さんがまた幸一君の前に現れた時、君が琴音君に告白するシチュエーションを望んだ」
琴音が過去のトラウマを克服出来るように。
俺の一番で特別がお姉さんではなく琴音だとより伝わりやすくするために。
「じゃあその、決行した日があの幽霊調査を頼まれた日だったって事ですか?」
「幸一君が桜貝を意識する必要があったからね。琴音君が桜貝について幸一君に話したあの日がベストだったんだよ」
という事は、長い時間温められていたのに、かなりの見切り発車じゃ状況だったみたいだな。
「そして、予定通り幸一君はお姉さんに会った。でも予想外だったのはお姉さんの存在がほとんど消えていて、しかも記憶が無くなっていた」
あの日、真白と出会った時は何も覚えていなかった。
誰かを待っている事以外は。
今考えれば、その待っていた相手は俺だったのだろう。
「きっと桜貝の力だけでは不十分だったんだと思う。自分のお呪いながら不甲斐ないよ」
そうか、この人が発信したお呪いなのか。
「幸一君は、その不安定な彼女に名前を付けた。神代真白という名前を。その新たな存在のおかげで、現れてすぐに消える事はなくなった」
「それは前にも言ってましたね」
嘘と本当の話を織り交ぜて話されている。嘘を吐く時の常套手段を使われている。
本気で俺を騙しに来ていたようだが理由はあるのだろうか。
「その後だよね、幸一君の記憶がないのは」
「はい」
ここから俺が何をしていたのかは分からない。
「君が僕の所へお姉さんを連れて来た時もとても不安定な存在だった。真白ちゃんであってお姉さんでもある。いつ消えても、おかしくない状態だった」
絶望的な様子であるのはその時の記憶がなくとも伝わってくる。
「その時の君には僕達が何をしていたのかを説明した。でも、不安定な存在のお姉さんが居ても、また消えてしまうだけと僕は思った」
お姉さんが消えれば鈴音の作戦は何の意味もなくなる。
「不安定な存在のお姉さんの存在が消えれば記憶がなくなる。だから記憶がなくならない僕が預かると言ったんだけど、お姉さんはそれを拒否して幸一君と居たいと言ったんだ」
「俺と、ですか?」
「記憶が戻った様子もないのにね。いつ消えるか分からないお姉さんを君と一緒に居させる事は君の記憶が消えてしまうからダメだと言ったんだけどね……」
「俺はお姉さんと一緒にいる事を選んだんですね」
前に真白を連れて行った時にも同じ事を神宮先輩は説明していた。
何も覚えてないなら真白と同じ姿だと言うなら少女だ。
俺が助けないわけがない。
「それからの事は分からない。結局、それかた君達は僕の所へ来ないままコンビニの前で君達と出会った」
悪魔と戦った後の血塗れの神宮先輩に会った時だ。
「幸一君は僕と知り合いだという事を忘れていた。それで僕はお姉さんの存在が再び消えた事が分かった。またバッドエンドを迎えたんだと」
存在が消えたから、記憶が消える。
この物語のお決まりのバッドエンディング。
俺が迎えた二度目のバッドエンド。
「でも、幸一君の隣には存在が消えたはずの真白ちゃんがいた。これはどういう事かを考えたら一つの答えに思い至った」
「お姉さんの存在だけ消えて真白の存在だけが残ったんですね」
一緒に消えるはずだった、仮初の存在が残ってしまった。
神代という苗字のおかげで。
「僕は最後のチャンスかもしれないと思った」
お姉さんはいないが同じ姿の真白がいる。何か出来るかもしれない。
「そこで君には真実を告げずに鈴音君に聞かなければいけない事があった」
コンビニで会った神宮先輩はやけに話をハグラかしていた。
「聞かなければいけない事って何です?」
「鈴音君にとってのハッピーエンドをだよ」
鈴音のハッピーエンド?
「言っただろ? ハッピーエンドは場合によって他人のバッドエンドになるって」
前に迎えたエンドがどっちかを聞いた時に先輩が言っていた言葉だ。
「という事は、俺に本当の事を隠してたのは鈴音のハッピーエンドが―俺のバッドエンドになるって事ですか?」
でも何でだ?
「言ってくれれば、俺も協力したハズですよね?」
お姉さんを救うとなれば。
俺がそれを拒否するわけがない。
「僕が真白ちゃんの正体を隠した事で君は彼女を何者だと思った?」
「……八夜神社の神様です」
「君はお姉さんを連れて来た時も神社の神様だと勘違いしていた。だから記憶が無くても同じ勘違いをしていた。その勘違いをさせ続けるのが、僕と鈴音君の狙いだったんだよ」
狙い?
「君はなぜかお姉さんと海で会った日の記憶が残っていたよね? だから君に記憶があるならお姉さんの存在は完全に消えてないんじゃないかって」
俺が出会った時の記憶があるのは原因が分からないと、この前は言っていたハズだ。
「幸一君が桜貝をオジサンに加工を頼んでいたのは鈴音君から聞いていたからね、何で頼んだのかは僕にも分からないけど、それを利用しようと思ったんだよ」
「利用する?」
「そう。残ったお姉さんの存在を留めるために。一番お姉さんと繋がりが近い真白ちゃんが桜貝を持つようにね」
「でもそれは俺に嘘を吐く理由になりませんよね?」
騙す必要がない。話してくれれば真白に桜貝を渡したのに。
「お姉さんと真白ちゃんは別の存在だけど体は繋がっている。今の真白ちゃんはその体をお姉さんの存在が消えたから使っている」
さっきも説明してくれたが、それがどういう事になるんだ?
「じゃあ、もし僕らがお姉さんの存在を取り戻したらどうなると思う? 取り戻すために何をする必要があると思う?」
何をする必要があるって……?
「お姉さんが存在するにはその逆の事をしないといけないんだよ」
それって―!
「真白の存在を消すって事ですか!」
お姉さんの存在が消えたから真白が存在するなら、お姉さんを存在させるためには逆に真白の存在を消す必要がある。
「そうだよ。もしそれを正直に話したら幸一君はどうしたと思う?」
「どうしたって」
そんなの―飲める訳がない。
俺が真白を見捨てるわけがない。見捨てられる訳がない。
「そういう事だよ。幸一君、だから君に嘘を吐いた。君に協力をして貰うためにね」
「じゃあ、先輩は最初から真白の存在を消すつもりだったんですか?」
「消すも何も最初からその体はお姉さんの体だ。持ち主に返すのは当然だとも言える」
「でも、真白は!」
真白は一人の人格として生まれて。今日まで神代真白として生きて来たんだぞ?
「じゃあ幸一君はお姉さんの存在が消えてもいいの?」
「それは……」
「一つの体に二つの存在がいる限り、どちらかが消えるしかないんだよ」
「その話を聞いて鈴音はお姉さんを選らんだって事ですね?」
「そうだね、それが鈴音の選んだハッピーエンドだ」
「……そんなの」
ハッピーエンドは誰かのバッドエンドになりえる。
鈴音は真白と話している時、一体どんな気持ちで話していたんだ?
腹の中では存在を消そうとしている相手と楽しそうに話して何を思っていたんだ?
大体、そんなの俺にとっても、お前にとっても―
「ハッピーエンドなんて言えないだろ!」
全員救えない未来を俺はハッピーエンドとは呼ばない。
「……そうだね、だから君に全てを話したんだよ」
「え……?」
ガラっと教室のドアが開く音が背後からする。
「それは僕から話すッスよ幸一先輩」
「鈴音!」
神宮先輩と俺の話を聞いてたのか?
「すいません神宮さん。後は僕が話すッス」
「そうかい? じゃあ任せるよ」
「ありがとうございます」
軽いお辞儀をして鈴音は俺に向き直る。
「幸一先輩。ちょっと、ついて来てくれるッスか?」
お願いするッス―と深く頭を下げる。鈴音らしくない誠意を込めた頼み方だ。
「おい、行ってやるから頭上げろ。調子が狂う」
「ありがとうッス」




