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私はアナタを……

「あーあ、流石に冷めちゃってるわね」

 たこ焼きを一つ口に咥え、飲み込んだ感想を琴音は漏らす。

「それでも、美味しく食べられるのはお祭り効果かしら?」

 と言いながらたこ焼きを、もう一つ口に咥えた。

 俺も焼きそばを食べるとしようか。

 正直、自分で作った方が美味いであろう自信はあるのだが。

 焼きそばにケースと一緒に輪ゴムでとめられていた割り箸を抜く。

 せっかく買った焼きそばだ。今ここで食べないのは勿体ないだろう。

「いただきます」

 手を合わせて、割り箸を割る。焼きそばを少しつまみ口に入れる。

 確かに冷めているが美味い。祭り効果は本当かもしれない。

「ねえ幸一、私も焼きそば食べたい」

「ん」

 焼きそばのケースを琴音に渡して代わりにたこ焼きを受け取る。

「……ちょっとアンタ、箸も寄越しなさいよ。それしかないんだから」

 屋台のオヤジめ、二人いるんだから少し気をきかせろよ。

「間接キスなんて考えてんじゃないわよスケベね」

「今さらお前とそんな事でドギマギしねえよ」

「んー……ま、そうね。そりゃそうよね」

 そう言って渡した箸で、琴音は焼きそばを食べ始めたので俺もたこ焼を口に放り込む。

「それにしても、こんな所に入ってきて大丈夫なのか?」

「大丈夫だって言ってるでしょ? この土地は私達の家の所有地なんだから」

「……ならいいけど」

『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた看板の横を通り過ぎて来たので心配なのだ。

「つうか、なんで前に神社があった土地を今でも所有しているんだ?」

「知らないわよ。ご先祖様に聞いて」

 それもそうだ。

 琴音がもう一口焼きそばを食べ始めたので俺もたこ焼を一つ食べる。

 二人とも喋らなくなると波の音が大きく聞こえる。

 要は、ここがレポートのために琴音が話してくれた、男神が旅立つまで女神が住んでいた神社の跡地なんだろう。

 完全に更地のせいで全然何があった場所なのか分からないが。

 ブルーシートを敷いて二人で座っているが本当に何もない。

「つうか何でブルーシートがあんだよ?」

「用意したに決まってるでしょ? 連絡を貰った時からここに来ることは決めてたもの」

 用意周到な事で。

「わざわざ二人きりになる為にここにしたのか?」

 二人きりと改めて口にすると少し気恥ずかしい。

「そうよ」

「そうなんだ……」

 ハッキリ言う奴だ。ちょっとは照れて見ろよ。

「まぁそれだけじゃないけどね」

「他にもあるの?」

 琴音は答えずに後ろに倒れ仰向けになって寝転がった。

「アンタも寝転びなさい。気持ちいわよ」

 ここで嫌と言っても話が進まないだろう。言われた通りに仰向けに寝る。

「ここからの景色いいでしょ? 星が綺麗で」

 確かに。回りに人口の光がないこの場所からは、夜空が筒抜けて見えて星が綺麗だ。

「海の音も聞こえてとっても雰囲気がいいでしょ?」

 そう言うと、トンっと琴音が俺の手に自分の手を軽く当てくる。

 静寂の中、波の音と俺の心音だけが聞こえる。

 やっぱり今日こそは―

「……ねぇ、幸一」

 琴音が静寂を破る。

「私、この場所さ。とっても―」

 とっても?

「嫌いなの」

「嫌いなのかよ」

 いい雰囲気だったのに、そんなボケするか?

「冗談じゃなく嫌い。超嫌い。だーい嫌い」

「嫌い過ぎるだろ」

「そう。私はここが嫌い過ぎるの。何でか分かる?」

「分からないな」

「そうよね」

 もしかして馬鹿にされてる?

「よいしょっ、と」

 琴音は体を起き上がらせたので、それに合わせて俺も起き上がる。

「ねぇ幸一、ここで遊んでいたの覚えてる?」

 前も同じ質問をされたよな。この神社跡地で遊んだ覚えがあるかどうか。

「覚えてないな。今日、初めて来た感覚だ」

 この町にこんな場所あったのかと、さっき来た時に驚いたくらいだ。

「そうね覚えている訳ないわよね」

 やっぱり馬鹿にされているよな?

「でも私は覚えているわ。忘れないでいるの。忘れられないでいるの」

 忘れられないでいる? なんだその言い方?

「何か嫌な事でもあったのか?」

「嫌な事?」

 その声音は恐ろしく冷たい。

「あったわ。あったに決まっているでしょ? あたり前よ。でないと、あんなに楽かったこの場所を私は嫌いにならないわ」

 何があった? 琴音がそこまで言う事を、俺はなぜ覚えていない?

「ねえ、神宮さんの親戚だっけ? あの子、今どうしてるの?」

「へ? 真白?」

 なんで今、真白の話になるんだ?

「そう真白ちゃん。どうしてる?」

「さっきも楽の友達とも話してたけど、今は楽達と遊んでるぜ? 仲良いんだよあの二人」

 楽以外とも仲良くなれればいいが……。

「幸一はあの子をどう思ってるの?」

 何だその質問は?

「どうも、こうもねえよ。柚葉とか詩子みたいなもんだよ」

 お前の言うチビッ子共と同じ感じ。

 居候だから、どっちかと言うと、楽の面倒を見ている感覚に近いかもしれないが。

「ふーん……やっぱり真白ちゃんは違うのね」

 違うって恋愛対象じゃないって事か?

「そ、年下は対象外だよ」

「……そうよね。アナタにとって下の子は、皆守る対象だもんね。鈴音も楽ちゃんも柚葉も詩子も。……みんなのお兄ちゃんだもんね」

 別にそんなつもりはないのだが、オッサンの『妹は兄が守るもの』という教えの範囲が無意識に年下全員になっているのかもしれない。

「それに」

 年下が恋愛対象じゃない理由はまだある。

「俺が好きなのは―」

 ここは、勢いに任せて言うべきだろう。

「おま……」

「年上の人?」

 セリフを被せられたうえに、酷い誤解をされている。

「い、いや、それは違う、違うんだぞ? 琴音」

 ここ一番で今まで失言が足風となる。

「ふーん、やっぱり幸一はロリコンなのかしら」

 そういう結論になるのかよ……。

「それも違う! だから、俺が好きなのは」

 もう強引にでも―言うしかない。

「お前なんだよ琴音!」

 幼馴染への告白。

「ロリとか年上とかじゃなくて、俺はいつも隣にいるお前の事が好きなんだよ!」

 ずっと一緒にいるお前の事が俺は好きだ。

「ねえ幸一」

 琴音が肩を寄せて来て密着してくる。

「私もよ」

 その言葉に心臓が跳ね上がった。

「私も幸一の事が好き」

―でも、と琴音は言う。

「やっぱり私は―アンタの事が信じられない」

「え?」

信じられないって……?

「幸一がどれだけ私の事を好きだって、特別だって、一番だって、言葉を尽くして言ってくれても、私はそれを信じる事が出来ないの」

 寄りかかっていた琴音が離れて立ち上がる。

「ごめんね幸一、私は幸一の中にいる彼女をどうしても忘れられない」

 彼女?

「お願い幸一」

 見上げても琴音の表情は暗闇のせいで見えない。

「早く私を―選んでね」

 今日の幼馴染は本当に積極的である。

 ただそんな彼女が俺には何かに酷く怯えているように感じた。


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