柚葉と詩子が可愛くて仕方がない
「遅い……」
待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。きっと手伝いで遅れているとかだろうが。
まぁ別に待たされるのは嫌いじゃないからいいのだが。
しかし、こんな田舎町にこれだけの数の人がいるなんて毎年の事ながら驚く。
もちろん町の人以外も、たくさんいるだろうが。それでもだ。
人が多い事もそうだが、屋台から感じる香ばしいソースの匂いや浴衣を着た人達。
今年も祭の日がやって来たと実感が出来る。
沢山の屋台が並んでいる風景を見ると高校生になった今でも心が躍ってしまう。
金魚すくいとか射的とか超してみたい。
少年心はまだ健在のようだ。
齢十七にして、忘れていたら流石に達観し過ぎかもしれないが。
まぁ今はそんな少年心よりも、年齢通りに沸き立つ青年心だ。
祭といえば浴衣の女性に目が行ってしまうのが、健全な男子高校生というものだ。
俺が思うに、浴衣を着たら30%くらい、色っぽさか可愛さが割増する。
楽や鈴音が着たら可愛さが増すだろう。きっと真白も可愛くなるだろうが、アイツは大きくなれば色っぽく着こなしそうだ。
ただ、そうなった真白の姿を俺が見る事は叶わないかもしれないが。
夏休みが終われば、真白はいなくなる。
神宮先輩が真白をどうするのかは知らないが簡単に会えない可能性はある。
短い付き合いだが、少しばかり寂しいものだ。
とはいえ夏休みが終わるまで時間はまだある。今から湿っぽくなっても仕方ない。
祭を楽しまなければ。
気持ち改め楽しもうにも、一緒に楽しむ相手がまだ来ていないのが難点なのだが。
そういえばアイツは浴衣で来るのだろうか。もし着たのならきっと―
「コウ兄ちゃーん!」
「おわっ!?」
俺の名前を叫びながら突撃してきた、小さな女の子をギリギリ踏ん張って受け止める。
「遊ぼっ!」
突撃少女は満面の笑みで俺を元気良く遊びに誘う。
まあ誘ってくれるのは嬉しいんだが―
「おい柚葉! 俺を見かける度に突撃してくるなって言ってるだろ」
「ふひっ、何度も言うけど今のはハグだよ? コウ兄ちゃん?」
「それならもっと優しくしてくれ……」
構えがプロレスのタックルと同じなんだよ、お前のは……。
「考えとく!」
頼むぜ本当に。どんどん成長しているせいで最近は受け止めきれなくなりそうだから。
この柑橘系の果物のように爽やかな笑顔の元気少女は片原柚葉ーー近所の小学生である。
「つうか柚葉、今日は一人か?」
「ん? 違うよ?」
と言うことは。
「ゆ、ユズちゃーん! どこー?」
少し遠くに柚葉の事を呼ぶ今にも泣きそうな少女がいた。
「なっ!」
「お前また友達を置いてったのか……」
親友なのじゃなにのかよ?
「ウタ! こっち!」
柚葉の声が届いたのかウタと呼ばれた泣きそうな顔の少女は人混みから柚葉を見つける。
「よ、よかったぁ。急にいなくなるから心配したんだよ!」
「ごめんごめん」
「死んだかもって……」
「おいおい、この一瞬で頭の中のアタシどんだけ過酷な目に合ったんだ? まあ、悪かったよウタ。コウ兄ちゃん見かけたからつい体が」
「お兄さん?」
「よう詩子」
泣きそうな表情に丸眼鏡を掛けた見るからに気弱な少女は霞詩子―柚葉の同級生だ。
柚葉と詩子の二人は俺と琴音と同じように幼馴染だ。
見かける度、いつも二人一緒に行動している。本当に仲がいい事だ。
「お、お兄さん! 最近、全然見ないから私死んだのかと……よかったです……」
「ゴメンな詩子、でもな、人をすぐに殺すのは辞めような?」
心配してくれるのは嬉しいんだけど。
「でもさ、夏休み入ってから全然遊んでくれないじゃん」
という事は記憶がない間、この二人には会っていないようだ。
「色々忙しかったんだよ」
「そっかぁ。高校生って忙しいんだなあ」
高校生なのは関係ないけどな。
「でもでも、お兄さんが今いるって事は、今日は遊べるって事ですよね?」
「そうだそうだ! 遊べコウ兄ちゃん! アタシは兄ちゃんと金魚すくいがしたいんだ!」
そんなに俺と遊びたいか、可愛い奴らめ!
まあ、いつもなら遊んでやるところだが。
「ゴメンな今日は無理だ」
「えーなんでだよーアタシ達と遊びたくないのかよー」
「死ぬんですか?」
残念そうにする二人……詩子のそれは残念そうなのか?
しゃがんで柚葉と詩子の目線に合わせ二人の頭に手を乗せる。
「死なないし、俺だってお前らと遊びたい、俺は柚葉も詩子も大好きなんだぜ?」
「じゃあ」
「でも今日はダメだ。約束があるからな。だから明日、俺と遊んでくれないか?」
今日だけはな。可愛い妹分のお願いでも、聞いてやれないんだよ。
「アタシ達とも約束してくれるなら……」
「いいよ約束」
「破ったら死刑です」
あーダメだ……。
「じゃあ、明日は絶対にって、うひゃあ!」
「ンッとに、可愛いいな二人とも!!」
ワシャワシャと二人の頭を撫でまわす。
「可愛いなぁ! 愛しいなぁ! 狂おしいなぁ!」
「や、やばい逃げるぞウタ! コウ兄ちゃんが暴走し始めた!」
「死ぬう……」
撫でる手を振りほど逃げようとする柚葉と詩子をガッチリ捕まえる。
「何だよ、柚葉、詩子、逃げるなよ? 俺のこと嫌いになったのか?」
「いやいや、いや! コウ兄ちゃんの事は、大好きだぜ! でもな、なぁ!?」
「まずは落ち着くのですお兄さん! は、離せば分かります!」
尚も逃げようとしているが、小学生が高校生に腕力で適うわけがない。
逃げられると思うな!
「柚葉、詩子! 愛してるぜ!!」
「「キャー!!」」
「辞めなさいバカ!」
「でっ!?」
後頭部に強い衝撃が走り、手の力を緩めてしまい二人を逃してしまう。
「全くアンタって奴は……そんな事してるからロリコンって呼ばれんのよ」
この声は、というかこんな無遠慮に俺の頭を殴っくるやつは一人しか知らない。
殴られた部分を擦りながらそいつを睨みつける。
「遅れたくせにコレはどういう仕打ちだ琴音!」
せっかく二人と楽しく遊んでいたのに! この恨み晴らさでおくべきか!
「アンタが犯罪者にならないように止めてやったんでしょ? 感謝しなさい」
「犯罪者って、俺はただ柚葉と詩子と遊んでだけだろ? なぁ柚葉?」
「姉さん姉さん! やっちまってくれ!」
琴音の後に隠れた柚葉が敵となって琴音を鼓舞している。
「う、詩子?」
「死刑です」
同じく琴音の後で、詩子は俺に判決を下す。
「どうやら正義はコチラにあるようね」
「う、嘘だろ?」
拳をパキパキ鳴らしながら地獄の執行人が近付いてくる。
「覚悟しなさい?」
「え、ちょっまっ。い、嫌だ……! 柚葉! 詩子! 助け……イヤーーー!!」




