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愛情書きかきオムライス一つ

「ひ、人聞きが悪いッスね」

 鈴音はカウンター席に座る。

「祭りの手伝いをサボっている所を見られて、マズイなって思っただけッスよ」

「姉は頑張ってるっていうのに……」

 篠宮姉妹メモ―姉は真面目で妹はズボラ。

 メモ取るまでもなく昔から知っている事だが。

「ちゅうもん」

 いつの間にか鈴音のカウンター席の横にスタンバった真白が、何一つ空気を読む事なく接客を続けている。

「おークソ生意気な店員ッスね。悪くないッスよー」

 何が悪くないのだろうか。鈴音は真白を見てニヤニヤしている。

「ちゅうもん」

「マイペースっすね」

 これはマイペースと言うのだろうか?

「ふふっそれじゃあ―ウエイトレスさん愛情書きかきオムライスを一つ」

「当店そういったサービスはしておりません」

 人差し指を直立させながら片目を閉じて顔を決めてるところ悪いが―新幹線に乗って秋葉原にでも行って言ってろ。

 真白も鈴音が何を頼んだのか分からなくて首を傾げてしまっている。

「こーいち、オムライス?」

 真白は聞き取れた意味の分かる言葉だけで注文の正解を見出したようだ。

「ふむ、冗談が通じない娘みたいッスね」

―いいッスよー! と、さらに興奮する鈴音。美少女全肯定野郎である。

 女なので全肯定女郎か。

「あ、先輩は冗談だって分かってるッスよね? 本気でオムライス作り始めないでくださいよ? コッチもサボタージュしてる身、そうゆっくりも、してられないんスよ」

「そんなサボりを胸張って言われてもな……適当なアイスコーヒーでいいか?」

「ん、お願いするッス」

 猫舌の鈴音はホットが苦手で、コーヒーを飲む時はいつもアイスだ。

「それで先輩。この美少女が神代さんッスか?」

「へ?」

 手からカップが滑り落ちそうになる。

「え、何? お前も記憶が?」

「記憶……? それは何の話か知らないッスけど神宮さんから預かっている親戚がいるって聞いたんスけど」

 あーそうか、神宮先輩とオカ研で繋がっているんだよな。

それに昨日は姉の琴音にも言ったのだった。

「そう、神代真白」

「よろ」

 片手を挙げて挨拶。

「んー変な美少女ッスねぇー。まぁでも、よろしくッス」

 お前も十分も変人だと思うぞ。口にはしないが

「しかし、神宮さんの家系は美形が多いんスかね?」

「さあな」

 実際は親戚でも何でもない赤の他人なので何の関係もない事を俺は知っているが。

「神宮さんの中性的な顔立ちもカッコいいッスけど、神代さんもこのまま大人になったら間違いなく美人さんッスよ」

「ありがと」

 素直にお礼を言っている。

「というか先輩、こんな美少女と一つ屋根の下って何もしてないッスよね?」

「しねーよ」

 楽と同じ心配すんじゃねえよ。

「でも神代さんを預かってるのってロリだからじゃないんスか?」

「ろり?」

「神代さんみたいなキュートな女の子の事ッス」

「ほう」

 じゃあ―と真白は言う。

「すずねも、ろり?」

「やべぇな、キュン死ぬ」

「死ぬな。口調崩れてんぞ」

 出来上がったアイスコーヒーを鈴音の前に置く。「あざッス!」と礼を言って少しだけ口に含んで飲み込む。

「まほうは?」

「ま、魔法ッスか?」

 突拍子もない言葉に戸惑う鈴音。

「砂糖とミルクの事だよ。美味しく飲める魔法のアイテムって渡したんだよ」

「あーそういう事ッスか」

 納得した鈴音は「ふっふっふ」とわざとらしく笑い出す。

「神代さん、その魔法のアイテムは子供だけしか使わないッスよ。つまり僕は心も体も成熟した大人ですから必要ないんスよ」

「嘘を付くな嘘を。砂糖もミルクもたっぷり入れるけど、お前の姉は、心も体もお前より成熟してるだろうが」

 甘党の琴音だが、そこのチンチクリンよりは随分大人だ。

 一つしか歳が違わないとは思えない差である。

「うるさいッスよ! ロリコン先輩!」

「ロリコン先輩!?」

「ろりこん?」

「変態のことッス」

 ストレートな物言いだ。

「こーいち、へんたい?」

「違うからな?」

 変なこと教えないでくれ。

「いえ、ロリコン先輩は変態ッス! 今でも真白さんのお腹にある小さなヘソを雷様のごとく狙っているんッスよ!!」

「ガチの変態野郎じゃねえか!」

 真白も両手でヘソをガードするな。狙ってないから。

「だからいつも言ってるだろ」

 どうして、どいつもこいつも俺をロリコン扱いする?

「俺は年上が好きなんだって」

「えっと……それは罪が疑われた時のカモフラージュッスか? アリバイ工作ッスか?」

「何で信じてくれないんですか?」

 何で罪を犯すこと前提なんでしよう?

「いつから、そんな事を言い出すようになったんスか先輩は」

 凄い呆れられた顔をされる。

「幸一先輩が年上好きって言ってる理由って何なんスか?」

「俺が年上好きの理由?」

 ……そういえば何でだろう?

「あんまり適当な事を言わない方がいいスよ? 琴姉に怒られるッスよ幸一先輩?」

「それは勘弁したいな……」

「本当に頼むッスよ? あっ! オジサンは何かないんスか?」

「あん? 急に俺に話振んじゃねえよ」

 鈴音の話がオッサンに飛び火する。

「いいじゃないッスか減るもんじゃないし、三十過ぎても未だに独身、女の影なしの理由とかあるんじゃないんスか? 昔好きになった女性が忘れられないとか!」

 そういえば俺も聞いた事がないかもしれない。

 オッサンを褒めるのは癪だが、このオッサンはモテる。

 料理が出来てコーヒーも美味い、手先も器用、何より三十を過ぎていると思えない若々しい顔立ちをしている。喫茶店にオッサン目当てで来る客も少なくない。

 にも関わらず、俺が世話になってから一度も浮いた話は聞かない。

「そうそう。それそれ。もういいか?」

 まともに取り合う気はない様子である。

「つまらないッスねぇ……最後に恋をしたのはいつなんスか?」

「だからいいだろ俺の話は」

「ちょっとだけ! ちょっとだけでいいッスから!」

 随分食い下がる鈴音である。まぁ確かに興味がないわけではない。

「聞いてどうすんだよ……まぁいいか」

 鈴音に観念してオッサンは口を開く。

「俺が最後に人を好きになったのは高校の時だよ」

「エッ! 高校ってオジサンが不良達の頭をはってた時じゃないッスか!」

 オッサンが高校生だった時、高校同士の抗争なんて漫画みたいな事を実際あったらしい。

 そして俺が通っている高校の元番長だったのが、そこにいる俺の伯父らしいのだ。

「どんな人だったんスか?」

「人間じゃないみたいに強くて綺麗な……って、やっぱり話は終わりだ、終わり」

「えー」

 鈴音は不満を漏らすがオッサンはダンマリを決めて作業に戻った。

「ま、そろそろ時間なんで別にいいッスけどね」

 諦めた鈴音はジャージのポケットから財布を取り出す。

「そういえば先輩、祭の日はどうするんスか? 結局、琴姉と行くんスか? 他に選択肢があるとは思えないッスけど」

「琴音?」

「あれ? 昨日、先輩の家に行ったんじゃ?」

「いや来たけど……」

 祭の話もしていた気がする。

「あれ? 誘われなかったんスか?」

 誘われてないな。

「おかしいッスね……ん? あーそういう事ッスか」

 なにか納得しているが―なぜ真白を見る?

「じゃあ先輩の方から誘ってやってくださいッス」

「え、俺?」

「琴姉が空いている日は祭の一日目ッスからね。絶対ッスよ?」

「お、おう」

「ちゃんとバッチリ決めてくださいッスよ? 頼むッスよ?」

「……分かったよ」

 お金を置いて、席から立ち上がり、オッサンの所へ行き一言、二言話したかと思うと。

「ほいじゃ、また! 幸一先輩! 真白さん!」

「バイ」

 真白はカウンターの席に座ったまま手をフリフリと振る。

 それに手を振り返しながらドアのベルを鳴らし、鈴音は喫茶店から出ていった。

 ドアが閉まると、鈴音のいなくなった店内は静かになり雰囲気作りの為に垂れ流しになっているジャズだけが耳に入ってきた。

「……おい坊主」

 オッサンが手元から目を離さずに俺に話す。

「琴音の嬢ちゃんと祭に行くのか?」

「まだ分からねえよ。誘ってもねえのに」

 琴音が俺以外の友達と予定だってあるかもしれない。

「じゃあ、誘うつもりはあるんだな?」

「ま、まあ」

「そうか」

 それだけ言うとオッサンは何も言わずに作業に戻った。

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