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接客に向かない美少女

 夕飯も食べ終わり、楽と真白が仲良くテレビゲームをしているのを見ていると

『明日来れるか?』

 という、簡素で素っ気ない一文が和久のオッサンから送られて来た。

 要は店の手伝いに来いというメールだが、今は真白もいる。

 どうしようかと悩んでいたら

『どうせ暇だろ?』

 行く気が失せる文面だ。暇ではないと反発したくなる。

 とはいえ、この前の手伝いをドタキャンしている身としては断り辛い。

『分かった、行く』

 簡素で素っ気のない文を仕返ずと、すぐに

『了解』

 とだけ返って来た。


 カランコロンと入店のベルが鳴る。昼休みか、それとも営業の合間なのか、カッターシャツを着た中年の男性が入店した。

 それを見てカウンター席に座っていた少女が駆け足で出迎えに行く。

「いらっしゃい」

 無表情で棒読みという斬新なお出迎えに客が困惑している様子が見て取れる。

「おい嬢ちゃん、敬語使え、敬語」

 もっと他にも直すべき所が色々ある気がするが。

「何? 和さん、幸一君以外にも、こんなに可愛いバイト雇ったの?」

 和さんと言うのは、和久のおっさんの愛称だ。

「そんな余裕うちの店にないよ。職場体験みたいなもん」

 敬語を使えと人に言う自分は客にタメ口である。

 しかも視線はずっと手元だ。親しみのあると言ったら聞こえはいいが礼儀のない店主だ。

「ホントいい加減な店だな……」

 今のワンシーンを見てつい、ぼやいてしまう。

 連絡が来た次の日の昼、約束通りにおっさんの店『和』に来たが、ついて来た真白に

「暇なら働け。働かざる者食うべからずだ」

 なんてオッサンが言い出し、料理もコーヒーも作れない真白は、接客を担当する事になったが、接客の具合はさっきの通りである。

「ちゅうもん」

 オッサン注意を一切聞かずに愛想の欠片も感じない接客を真白は続けている。

「あ、あはは……。じゃあブレンドコーヒー」

 困った笑いを見せながら男性は注文する。

「ん」

 アイツは接客に向いてないな。と思ったが客の男性は特に不快そうな顔をしていない。相手が美少女ならどんな接客をされてもそれなりに嬉しいものかもしれない。

 可愛いは正義とはよく言ったものだ。

 まあ、真白が幼い雰囲気であるため、大目に見てくれているのだろう。

 小さなお手伝いさんに、やいのやいの言う客もそうはいない。

 注文を取った真白が戻ってくる。

「こーいち、コーヒー」

 どのコーヒーだよ? 注文聞きに行く意味ないだろそれ……。

 聞こえていたから別にいいんだけど。

「あいよ」

 わざわざ言うのも面倒だ。返事だけしてサイフォンに向かう。

 さて、どの豆を使うか。

 コーヒーの作り方はオッサンから叩き込まれている。

 家に両親がいないため、保護者代わりとして俺を育ててくれたのがオッサンなのだが、生きる術と言って、料理から始まり家事全般、喧嘩から裁縫の仕方まで色々な事を俺に教えてくれた。

 そして究極の教えが、妹は兄が守るものだと、楽の面倒は俺に全て俺に任せられている。

 サイフォンの水が沸騰してコポコポと音をたて始めた。加熱により生じた蒸気圧により熱湯がガラスの管を登り、コーヒー豆と混じり合い、香ばしい匂いが店内に漂い出した。

「おー」

 コーヒーが出来上がっていく様子を眺めて感嘆の声を真白はあげている。

 なんとも微笑ましい姿だが、カウンター席に完全に座って見つめている。

 働いている自覚はあるのだろうか?

 店主のオッサンが特に何も言わないところを見ると、別に本気で真白に働いて貰おうと思っているわけではないのだろう。

 する事がない真白に、ちょっとした手伝いをさせるくらいの気持ちなのだろう。

 本当に学生の職場体験みたいなものだ。

 地元の常連で店の生計を立てている小さな喫茶店だ。

 そのくらいの自由はどの客も笑って見過ごしてくれる。

 出来上がったコーヒーをすぐにカップに移し、盆の上に乗せる

「熱いから気をつけろよ」

「ん、いただく」

「お前のじゃねえ」

 誰もお前の口内の心配はしてない。

「じょうだん」

 椅子から立ち上がり盆を取ると、真白は客のところへコーヒーを持って行った。

 現在までにこの店に来た客は今いる客を合わせて三組目だ。

 大人数の来店なんて珍しい店に、俺みたいな手伝いは要らないように思える店内環境だが、俺がオッサンに呼ばれる一応の理由はある。

「そういやオッサン、俺が渡した桜貝は?」

「あん? まだ作ってねえな。お前のは後回しだ」

「あっそ」

 客がいるにも関わらず、手元ばかりに注目しているのは、副業としてやっているアクセサリー作りをしているのだ。

 今は祭が近いので露天で売るアクセサリーを作っているのだろう。

 副業が忙しい時は、こうして俺を店に呼んで手伝わせるのであった。

「ごちそうさま! 御代ここに置いとくね」

「ん」

 相変わらず偉そうに返事する真白は置いといて、中年の男はもう店を出て行くようだ。やはり少し涼みに来ただけのようである。

 真白は客が出て行くと再びカウンター席に戻って座った。

 食器くらい片付けて欲しいのだが。

 仕方がないから、自分で机の上に置かれた代金と綺麗に飲み干されたコーヒーカップをさげ、御代をレジにカップをシンクにそれぞれ放り投げて机を軽く拭く。

「こーいち」

「ん?」

「コーヒー」

 飲みたいのか? さっき客が頼んだのを見て興味が出たのだろうか。

「あんまり美味いものじゃないぞ?」

 喫茶店のバイトが言う事じゃないが。子供が飲むものじゃない。

「むぅ」

 不満そうだ。

「ま、別にいいんだけど」

 作るくらいなら全然構わない。

 中年の客に出した物と同じ工程と手順でコーヒーを作る。

 その間、真白は、さっきと同じようにサイフォンを凝視している。

 もしかしたら、コーヒーが出来るこの過程を見たいだけなんじゃないだろうか。

 出来上がったコーヒーをカウンター席に座る真白に出す。

「熱いから気をつけろよ」

 今度こそ真白の口内を気遣って言う。

「いただく」

 コーヒーカップを持ち上げてゆっくりとその小さな唇へと運んで行く。

 そしてコーヒーをそっと啜ると―

「ヴェッ」

 真白は顔をしかめる。奇声が発せられた。

「まじい……」

 だろうな。飲めるなんて思ってない。

 ところがどっこい!

 子供でも美味しくコーヒーが飲める魔法のアイテムを君に授けよう。

「これ入れてみ」

「なに?」

「魔法のアイテム」

 まぁ大げさに言っても、ただの砂糖とミルクが出てくるだけなのだが。

 真白は言われるがままに砂糖とミルクを入れる。クルクルとマドラーで中身を混ぜると、黒いコーヒーが茶色に色を変えて行く。

「飲んでみ」

「んー」

 さっきの一口が余程ショックだったのだろう、真白は中々口にしようとしない。

 ただ、コーヒーをジッと見つめているだけである。

 そして、しばらくしてついにコーヒーを手にして真白は飲む。

 喉がゆっくり一回、二回と動くとコーヒーカップを置いた。

 そしてまたコーヒーを見つめているが、今度は何度か頷いている。

 その反応は美味しかったという事でいいのだろうか。

「あまい」

 そう言って、再び口をつけ始め次に見たコーヒーカップの中身は綺麗に無くなっていた。

「次からは砂糖とミルク大目だな」

 真白は小さく頷く。と

―カランコロン

 と再び来店のベルが鳴る。

 真白はすぐに立ち上がって出迎えに行く。結構ノリノリで働いている。

「いらっしゃい」

 真白が出迎えた相手は俺と同じ学校のジャージを着ていた。

「およ? 可愛い子いる! おじさんの隠し子っスか?」

「んなわけねえだろ。いいから好きな所に座れ」

 さっきの客以上に雑に扱われている女子高生はやっと俺の存在に気づく。

「げっ」

「いくらなんでも、その反応はねえだろ」

 げっ、て。俺が何をした。

「今日バイトだったんっスね。幸一先輩」

「まぁな。それで? 俺はお前に何かしたか? それともお前が俺に何かしたのか? 鈴音後輩?」

 今日四組目の来店は篠宮琴音の妹、篠宮鈴音であった。

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