「うえっぷ」
神宮先輩との話しも終わり、オカルト研究会の部室を後にし、夕飯の買い物をするためにスーパーで買い物をして、帰宅した。
「…………」
ベッドで寝転がっている俺の隣で、回転椅子の座る場所に両足をのせて、手で勢いをつけて、クルクル回って真白が遊んでいる。
「楽しい?」
「たのしい」
なら別にいいけど。
酔って気持ち悪くなっても知らねえぞ。
「しかし、夏休みが終わるまでか……」
神宮先輩に真白の今後を任せる事は決まったが、その準備が必要らしく、夏休みの間だけ面倒を見る事になった。
「…………」
神宮先輩の最後の言葉を思い出す。
重要なのは―これからの物語をどう終わらせるか。
どう終わらせるかと言われても、何を以って終わりなのか俺には分からない。
前の物語は、存在の消えそうだった神様を救い、その結果、神様の存在は消えたが新しく生まれた真白の存在だけは残った―という感じだろうか。
記憶がないせいで肝心の、どう終わらせようと行動したのかが謎だ。
正直、迎えたエンディングがハッピーかバッドかも俺にはよく分からない。
人によってエンディングが違うというなら、真白はどう思うのだろう?
真面目に考えている隣で、真白はずっとクルクルしている。そろそろ飽きないだろうか?
というか、コイツはハッピーとかバッドとか以前に、まだエンディングを迎えていないのだろう。前の物語が終わり、今回から参入した新キャラという立位置なのだ。
「ふむ……」
ハッピーかバッドか、どのエンドだったかの答えは出ないが、新キャラとして真白が登場した事だけを思えばハッピーエンドだった、と言ってもいいのかもしれない。
まぁ神宮先輩の言うとおり、終わったエンドの事をいつまでも考えても仕方ない。
「おい、そろそろ辞めとけ」
ベッドから起き上がり、椅子の背もたれを掴んで回転を止める。
「あう」
急に止まったせいか真白から変な声が出た。
真白が睨んでいる。表情が変わらないだけで普通にコッチを見ているだけかも。
「こーいち」
「どうした?」
文句か?
「…………きもちわるい」
「アホ」
あれだけクルクルしていれば仕方ないだろう。
「うえっぷ」
真白から嗚咽が漏れてる。
「外の空気でも吸うか?」
「ん」
窓を開けると、夕方の生暖かい風が、冷房の効いた部屋の中に流れ込んでくる。
冷房のせいで風が生暖かいが、外は昼間よりも相当涼しくなっているように思えた。
「うん?」
よく見た顔が玄関先に見える、その顔と目が合う。
「ち、違うのよ? たまたま近くを通ったからだけで! べ、別にアンタに会いに来たわけじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」
「うわー……」
わざとらしく手をワタワタさせ古風なツンデレ台詞で言い訳をしている。
何やってんだコイツ?
「とりあえず今降りるから待っとけ」
昨日電話でブチ切れていたハズだが、どうしたのだろうか。
開けた窓をまた閉める。
「お前はどうする?」
「うえっぷ」
「嗚咽で返事をするな」
まあ放っておけばいいか。
部屋を出て真っすぐ玄関に向かい、ドアを開ける。
「おっす、幸一!」
ヒラヒラと手を振っている。
「何の用だよ琴音?」
よく見た顔、幼馴染、篠宮琴音がそこにいた。
「それはコッチの台詞よ。あ、それより、さっきのツンデレどう? 萌えた?」
「萌えねえよ」
不気味でしかない。
「ツンデレキャラは好きじゃないようね」
「いや、そういう事じゃなく―」
ツンデレ台詞は台詞だけに注目したらかなり面倒臭いやつである。
その台詞と表情と行動のチグハグさが萌えるポイントである。
さっきの琴音はただツンデレ台詞を読んだだけであり萌えるポイントがない。
「ツンデレじゃないお前が言っても何も萌えないんだよ」
ついでだが、年下ではない相手からお兄ちゃんと呼ばれるのも萌えない。
「気持ち悪いわね」
「ツンツンだなお前は。ほら、たまにはデレてみろよ」
「か、勘違いしないでよね。ただ本気で気持ち悪かっただけなんだから!」
「デレてみろって言ったよな?」
尖りすぎだ。お前は剣山か何かなのか?
「まあいいや、それで何のようだよ?」
これ以上の口論は俺の心がもたない。
「本当に近くまで来たから寄っただけよ。昨日の電話の内容もついでにね」
昨日の電話、真白について調べるつもりでかけたら怒鳴られて切られたヤツだ。
「んーいや、それはもう大丈夫」
神宮先輩に話は聞けたので、琴音から聞く必要はなくなった。
「そっ、ならよかったわ」
「悪かったな忙しい時に」
「コッチこそ悪かったわ……ちょっと気が立ってたのよ」
「おっ、今の急にしおらしくなる感じ、ちょっとツンデレっぽい」
「萌えた?」
「少しだけな」
「ふふっバカね。悪いと思ったら謝るのが人として当たり前の事でしよ」
またキモいとか言われるかと思ったが。楽しそうで何より。
「せっかく来たんだからコーヒーでも飲んで行くか?」
「まだ帰ってやる事あるから遠慮するわ、残念だけど」
琴音の自転車には籠一杯に今しがた買ってきたのであろう荷物が入っている。
夏祭り前が忙しいのは相変わらずのようだ。
「あっそうそう、今年の祭りの日は少し時間が取れそうなの」
「へぇ珍しいな」
毎年祭りの日は忙しくて遊べなかったのに。
「そう、だから祭りの日―え?」
琴音が俺の背後を見て固まった。視線の先を振り向いて見るとそこには真白がいた。
「……うえっぷ」
まだ酔っている。
「え、え?」
友人の家から知らない少女が出てきて琴音は戸惑っているようだ。
早く説明しないと楽と同じ誘拐してきたと勘違いされかねない。
「えっと、神宮先輩の親戚の子で、神代真白って言うんだけど、夏休み中だけ家で預かって欲しいって頼まれたんだよ」
この説明が今の真白の設定になっている。
先週、神宮先輩と知り合った事は鈴音経由で琴音も知っているので少し怪しいと思うかもしれないが無理のない設定のはずだ。
「そ、そう……」
怪訝そうに真白を見ている。
俺はそんなに信用ないのだろうか……。
「あっ、そうだ! 私、買い忘れがあるんだった!」
「今から行くのか? 暗くなるぞ」
もう日が落ちて暗くなり始めている。
「大丈夫そんな遠くじゃないから、じゃあ、またね幸一!」
急いで自転車に跨がる琴音。
「おい! 手伝うか?」
もう入らないだろその籠の中には。
「いや、ホントに大丈夫だから!!」
かなり強めにNOを突きつけられる。
「それじゃあ」
短く別れの言葉を言って、琴音は自転車を漕いで近くの角を折れていった。
「何だアイツ?」
それに、何かを言いかけてたよな?
「うえっぷ」
「お前はいつまで咽吐いてんだよ……」




