神宮先輩は謎めく
「え、あの、大丈夫ですか!?」
「ん? 何をそんな焦ってるんだい?」
返り血なのか自分の血なのか、白色だったであろうシャツが、ほとんど部分が真赤に染まっており、一目でただ事ではない状況だと俺に知らせる。
「いや、それ、血が……」
彼の話は聞いていたが、噂以上にバイオレンスである。
「あーこれね」
彼の格好と落ち着きようのギャップが大きい。
もしその赤色が自分の血ならば満身創痍状態のはずなのだが。
例え返り血だったとしても、一人くらいは間違いなく殺している量だ。
「これで悪魔召喚の魔法陣を書いていたんだけどね」
彼がこれと言って持ち上げたのは赤色のペンキ。
「魔法陣?」
そういえばオカルト研だったか。
「そう、それでうっかりやっちまってね」
「うっかりペンキを被ってしまったと?」
漫画の世界みたいにベタな事をする人だ。
どんな被り方をしたら、そんな全身に浴びるようになるのだろうか?
「いや、うっかり召喚に成功した悪魔を殺ったんだよ」
「どんなうっかりメルヘン!?」
しかも殺したの?
「中々手強くてね。まぁでも、ちゃんと倒したからこの町に危害は加わらないよ」
冗談ですよね? それともゲームの話ですか? もしくは異世界から転生した方?
「というか、さっきから何を呆けているんだい、幸一君?」
いやもうツッコミ所が満載なのだが……。
悪魔の話は冗談として無視するが、とりあえず、一番気になった事を口に出す。
「あの、何で俺の名前を知ってるんですか?」
学校一の有名人の名前を俺が知っているのは分かる。
だが一般人でその他大勢に過ぎないモブの俺を、先輩が知っている意味が分からない。
「何でって……ん?」
「?」
神宮先輩は真白を見て思案顔になる。そして俺と真白を交互に見てニヤリとする。
「ははっ、なるほどね」
「何がですか?」
「んー面白そうだから、今は秘密にしておくよ」
とんでもない理由で秘密にされている。
「いや、そんなこと言わずに教えて下さいよ」
「どうしても教えて欲しいなら僕を倒して行くんだね?」
言葉の軽さと裏腹に柔らかかった目付きが鋭く尖り、俺を射殺す。
本気で言っているのかこの人?
「な、何を言ってるんですか? やりませんよ」
喧嘩なんて出来るわけがない。
「そ、残念」
目付きの鋭さが消える。素直に受け取ってくれたようだ。
この人、不良だけじゃなくて普通の人にまで喧嘩を売っているのか?
「秘密にすると言っても、いつまでも気付かない程、君も鈍感じゃないはずだよ……そうだね、もし気付いたらオカ研の部室に来てくれればいい―僕はいつでもそこにいる」
夏休み中でも部室で活動しているという事だろうか?
学校ではマイナーな研究会だが真面目に活動しているようだ。
「気付くって、俺は何に気付いてないんですか?」
「さぁ何だろうね」
それも秘密らしい。謎めいている。
「冒険に行き詰まった勇者にヒントを出す神様からのお告げみたいなものだよ。次のレベルまでの経験値は教えられないけどね」
神様、その言葉に少し反応してしまう。
「まぁ今すぐ全てを知りたいって言うなら僕を倒せばいい。ゲームのラスボスみたいなものだよ。倒せばクリアさ」
この人がラスボスって……実際に喧嘩しているところを見た事ないがそれでも無理ゲーである事は予想がつく。レベル1の勇者が魔王に挑むようなものだ。
「いやいや。君は十分挑むだけの素質があるはずだよ?」
「……鈴音から何か聞きました?」
「鈴音君に聞いたら何か知っているのかい?」
「…………」
この人は何を知っているのだろうか?
「ま、喧嘩しないなら、今日はもう幸一君に言う事はないかな……そうだね後は―」
言いながら神宮先輩は視線を俺から外すと
「真白ちゃん、イエーイ」
真白にハイタッチを要求した。
「いえい」
パチと小さく手の平が合わさる音がした。
「え、何? 知り合い?」
えらく仲が良さげだが。
「ぜんぜん」
真白が首を振る。
「知らねえのかよ」
明らかに知り合い同士のノリだっただろ?
ただ真白が神宮先輩の事を知らないのは普通で当たり前だ。
おかしいのは―
「なんで先輩が真白の名前を知ってるんですか?」
俺の名前を知っているのはあり得なくはない。鈴音から聞いている可能性はある。
だけど真白の名前を知っているのはおかしい。
昨日、俺がコイツに付けたばかりの名前だぞ?
「知っているからだよ。というか君達が知らないだけだね。僕からすれば」
またよく分からない事を言う。
「まあ、すぐに分かるはずさ」
ニヤリと笑う顔はイタズラ好きな少年のようである。
「君達はもうエンディングを迎えている―これからは次の物語だよ」
またもゲームに例えている……エンディングと次の物語?
「じゃあ、またね幸一君、真白ちゃん」
「ん」
短い返事を返す真白。偉そうである。
「また……」
シャツを赤く染めたまま俺の通う学校の方へ向かって歩いていった。
神宮功―想像よりも怖い人ではなかったが想像以上に不思議な人物であった。
それに喧嘩とゲームが好きなのは理解した。
「ん?」
携帯が鳴っている。
画面には『和久のオッサン』の文字。
オッサン? 手伝いは来週だったよな?
「はい」
「おい坊主、今どこにいる?」
「学校近くのコンビニだけど」
「すぐに店に来い。今日は店で手伝う日だったろ?」
何を言ってるんだ? 三十代で、もう耄碌したか。
「それ来週のハズだろ?」
「あん? お前は何を寝惚けたこと言ってんだ? 来週っていったら―」
来週に何か―
「夏祭りの日だろうが」
「…………は?」




