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あたり

「今からこっちに来る!? 毎年この時期どんだけ忙しいかわかってんでしょっ!」

「え、え?」

「切るわよ」

 返事する間もなく電話が切られる。

「んーおっかしいな」

 というか、おっかない。

 楽を部活へ見送った後、真白の事を調べるために神社へのアポを取ろうと琴音に一報を送ったのだが、結果はさっきの通り。

「昨日はそんな素振りはなかったんだけど」

 夏祭りが近いこの時期、その中心となる神社は必ず毎年、慌ただしくなり、加えて琴音が荒々しくなる。毎度無駄にチョッカイをかけて、何度殴られた事だろうか。

 だから忙しくなる祭り実施日から二週間余裕がある昨日、宿題の手伝いを頼んだのだが。

 一日で状況が急変でもしたのだろうか? いつも祭が近付くに連れて荒々しくなって行く琴音だが電話しただけで、あんなに怒らなくてもいいだろうに。

「女の子の日と被ったかな?」

 男なもので生理の酷さをよく知らないのだが。

「じゃあ、どうするかな」

 問題源の少女を見るとシャクシャクとアイスを食っている。

「……なんでお前、アイス食ってんの?」

 アイスをあげた覚えはないんだが。

 いつの間に冷蔵庫を漁りやがった。

 楽のではなくキッチリ俺が買ったアイスを選んでいるあたり抜け目がないというか。

 意外と図々しい奴だなコイツ。

「あたり」

 真白は外側を食べて剥き出しになったアイスの棒を見せてきた。

 棒の先には「あたり」の文字。

「おー良かったな」

 これで俺の分が返ってくる。

「いこ」

「?」

「こうかん」

「えー」

 この為だけに暑いのに出かけないといけないの?

 やる事が思いつかなくても、やりたくない事はあるんだぜ?

「いや?」

「嫌だ」

「…………」

 真白は首を傾げる。

「いこ?」

「嫌って言ったよな?」

 じゃあ、聞いたの何だったの?

「むぅ」

 不満そうだ。

「ん?」

 真白は急に歩き出してその場から離れていく。

 リビングのドアを開けて廊下に出ていった。

―ガチャ、と玄関の鍵が開く音。

「いってきます」

 という真白の挨拶―。

「いや、ちょっと待て! どこ行く気だ!?」

 玄関に飛び出して行く。行ってきますじゃありません!

「?」

 そんな何してんのみたいに首を傾げながら見られても……お前が何してんの?

「え? どこ行くの?」

「……こうかん?」

 一番近くのコンビニでも歩たら三十分以上はかかるぞ……

「お前そもそも道、知らないだろ?」

「ん」

 やっぱり……。

「ハァ……分かった。連れてってやるから、一人でどこかに行くのはやめてくれ」

 迷子になられても困る。探し回る方がよっぽど手間だ。

「うし」

 真白は小さくガッツポーズ。あれ、謀られた?

「……準備するからチョット待て。勝手に出て行くんじゃねぇぞ?」

 真白は頷く。

「ハァ……」

 ため息が止まらない。

 まあ、家にいても何か分かるわけでもない。

 少しくらい付き合ってやるか……。


「日焼け止め! 虫除け! 水分! 帽子! 全部OKかぁ!」

「おー」

 夏の必需品チェック。

 真白の声が小さいので、俺一人のテンションが高いように見えるだろうが、ビシっと肘まで伸ばし振り上げるコブシは、真白も同じテンションなのであろうと予想できる。

 もっとも俺の方はから元気なのだが。無理にでも元気のあるフリをしないと、クーラーで冷えた部屋に今すぐにでも引き返したくなる。

「にしてもお前。麦わら帽子が似合うな」

 帽子を探していた時に見つけて被せてみたが、白いワンピースと麦わら帽子というゴールデンコンビに真白の素朴な雰囲気と綺麗な長い黒髪が合わさり、プラチナコーデへと昇華させている。

 ただ、完璧なコーデのはずなのに何かが足りない気がする。

「うらやましい?」

「いや、別に羨ましくはないな」

 見ていて可愛らしくはあるが。

 麦わら帽子が似合う男でありたいなんて願望は俺にはない。

 あれが似合う男と言ったら、田舎のお爺さんのイメージだ。

「そう」

 薄い反応だ。イマイチ意図が掴めない質問だ。

「あっそうだ、お前、自転車に乗れたりするのか?」

 コンビニまでは歩いて行くには少し距離がある。

 自転車に乗らずに行くのは少々時間が掛かる。

 しかし、その問いに真白は首を振って答える。乗れないらしい。

 楽が中学校に入学した時に買った自転車が余っていたのだが……。

 余っているというか、楽の移動手段がランニングのみという習性のせいでほとんど使われず置き放しにされている可哀想な自転車が一台家にあるのだ。

「んーなら仕方ないか。二人乗りだな」

 違法だ! なんて、うるさく言う人はこの町にいない。

「のせれ」

「乗せれ?」

 何だその活用? 乗せてと乗せろが混じって噛んだか?

「まぁいいや」

 自転車の鍵を開けてサドルに跨がると真白は荷台に飛び乗った。

 ワンピースを着ているので跨がるのではなく、腰を掛けるように真白は座る。

「落ちんなよ」

「おう」

 なんか言葉遣いが荒くなってないか? 楽の影響だろうか?

「ん」

 真白がガッシリとしがみついてくる。

 落ちるなとは言ったがそんなに引っ着く必要もないんだが。

 もしかして二人乗りは初めてで怖いのだろうか。

「怖いのか?」

「べつに」

 そんなガッチリ捕まっといて?

「歩いて行くか?」

 時間はかかるが行けない距離でもない。怖い思いをしてまで早く行く意味も無い。

「いい」

 頑なだな。まだ動いてもないのに密着して離れないくせに。

 まあ、初めてジェットコースターに乗る時は安全バーを握りしめてしまうものか。

 真白が慣れるまでゆっくり走ればいいか。

「じゃあ動くぞ? しっかり捕まってろよ」

 これ以上なくしがみつかれているが。その細い腕からは想像できないほどの力である。もう締め付けられていると言っていいかもしれない。

 ペダルを漕ぎ始めると真白は更に顔を背中に押し付けた。

 暑い上に麦わら帽子の麦が刺さってチクチクするし―やっぱり蒸し暑い……。

 二人乗りなんて随分久しぶりな気がする。上手くバランスが取れるか心配である。

「あれ?」

 容赦なく照りつける太陽と見て微かな違和感を覚える。

 昨日のラジオ―今日は雨って言ってなかったっけ……?

 まぁ天気予報も絶対ではないのだろうが。

 でも雨の予報なら、こんなカラッカラな快晴じゃなくて、もっと過ごしやすい曇りくらいであって欲しいものだ。

 天気に文句を言っても仕方がないのだが。

 ……文句は神様に言うべきなのだろうか?

 背中にベッタリと張り付いている少女の正体を考える。

 やっぱりコイツは神様なのだろうか?

 琴音の話の女神が真白だとしら、この町の女神はあまりに頼りなさ過ぎるな。

 不思議な存在である事は分かるが、それ以上の結論は出ない。

 それでも、こうやって自転車を漕いで目的地に向かうように、ゆっくりでも真実に近づいて行かなけれならないのだろう。

 アイスを買いに行く事が、真実に近づくとは思えないが。

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