第6話 私の居場所がなくなりました
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第6話 私の居場所がなくなりました
陽菜が部屋を飛び出してから、どれくらい時間が経ったのだろう。
私は一人、ベッドに腰掛けたまま動けずにいた。
「私はママといるより、パパとお姉ちゃんと三人でいる方がいい」
陽菜の言葉が頭から離れない。
胸が苦しかった。
息をするたびに痛む。
私はずっと陽菜のために生きてきた。
恭弥に愛されなくても。
美玲に傷つけられても。
耐えられたのは陽菜がいたからだ。
その陽菜に拒絶された。
涙が止まらない。
その時だった。
コンコン。
扉がノックされた。
私は慌てて涙を拭う。
「……どうぞ」
扉が開いた。
入ってきたのは美玲だった。
私は顔を強張らせる。
「何かご用ですか」
美玲は扉を閉めた。
そして廊下をちらりと確認する。
誰もいない。
その瞬間だった。
今まで浮かべていた儚げな笑顔が消える。
代わりに現れたのは。
勝ち誇った笑みだった。
「本当に惨めですね」
私は息を呑んだ。
美玲はくすりと笑う。
「娘にあんなこと言われるなんて」
胸が痛む。
「帰ってください」
「嫌です」
即答だった。
「だって面白いんですもの」
美玲は私の前まで歩いてくる。
「見ました?」
「陽菜ちゃん」
「私に泣きながら抱きついてきたんですよ」
私は拳を握る。
「やめて」
「どうしてです?」
美玲は楽しそうだった。
心の底から。
「事実でしょう?」
私は顔を上げる。
「あなたは……」
「私が何ですか?」
美玲は首を傾げた。
「陽菜ちゃん、最近ずっと私と一緒なんです」
にっこり笑う。
「幼稚園のお迎えの後も」
「おやつも」
「お出かけも」
「寝る前のお話も」
一つ一つ。
わざと聞かせるように言う。
「やめて!」
私の声が震える。
すると美玲は笑った。
「あら」
「怒る元気はあったんですね」
そして。
耳元で囁く。
「でも奥様が悪いんですよ?」
私は凍りつく。
「仕事ばかりしていたから」
「陽菜ちゃん寂しかったんです」
「私が埋めてあげただけ」
その言葉に何も言えなかった。
陽菜が寂しかったのは事実だから。
美玲はさらに続ける。
「恭弥様も」
「陽菜ちゃんも」
「みんな私を選んだんです」
私は唇を噛む。
血の味がした。
すると美玲は部屋を見回した。
西館の質素な部屋。
そして楽しそうに笑う。
「奥様」
「何ですか」
「全部失いましたね」
心臓が止まりそうだった。
「恭弥様も」
「お部屋も」
「陽菜ちゃんも」
「もう奥様のものじゃありません」
私は立ち上がる。
これ以上聞いていられなかった。
しかし。
美玲はまったく怯えない。
むしろ笑っている。
「叩きます?」
私は固まった。
「え?」
「どうぞ」
美玲は自分の頬を指差した。
「叩いてください」
そして。
にっこり笑う。
「恭弥様に泣きながら言いますから」
全身から血の気が引いた。
この女。
最初からそれが目的なのだ。
私を怒らせたい。
私を悪者にしたい。
「最低ね」
掠れた声が漏れる。
すると美玲は満面の笑みを浮かべた。
「知ってます」
その返事に私は言葉を失った。
美玲は扉へ向かう。
そして最後に振り返った。
「そうそう」
まるで思い出したように言う。
「今日、陽菜ちゃんが言ってました」
私は嫌な予感がした。
「私がお母さんだったら良かったのにって」
頭が真っ白になった。
「嘘よ……」
「信じたくないなら信じなくても結構です」
美玲は笑う。
勝者の笑みだった。
「でも現実は変わりません」
そして扉を開ける。
「奥様」
私は動けなかった。
「次は離婚ですね」
扉が閉まる。
部屋に静寂が戻った。
私はその場に崩れ落ちる。
涙が止まらなかった。
恭弥を失った。
居場所を失った。
そして。
陽菜まで失おうとしている。
初めて思った。
――もう限界かもしれない。
と。
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