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【20話完結】冷徹な不倫夫にすべてを奪われた研究者の私が、16年前の小さな優しさに救われ、世界一愛されるまで。  作者: 杜英智


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第19話 あの日からずっと

読みに来てくださってありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは本編をどうぞ。

第19話 あの日からずっと


研究が成功してから数日。


私は、いつものように研究室で資料を整理していた。


「藤堂先生。」


振り返ると。


橘先生が立っていた。


いつもより少しだけ緊張した表情だった。


「少し、お時間をいただけますか。」


「もちろんです。」


私は応接室へ案内した。


お茶を淹れると。


橘先生は静かに口を開いた。


「菫さん。」


その呼び方に。


私は少し驚いた。


「この研究が成功したら。」


「どうしても、お話ししたいことがありました。」


私は黙って頷く。


橘先生はゆっくり話し始めた。


「私が十四歳の頃でした。」


「心臓の発作で、道端に倒れたことがあります。」


「誰も助けてくれませんでした。」


「皆、私を見ても通り過ぎていく。」


「孤児だった私は。」


「そこで死ぬのだと思いました。」


私は息をのむ。


橘先生は遠くを見るような目をしていた。


「あの時。」


「一人の女の子が駆け寄ってきました。」


「まだ十一歳。」


「小さな体で。」


「泣きながら私の手を握り。」


『大丈夫!』


『救急車、呼んだから!』


『お願い……。』


『死なないで。』


『頑張って。』


「そう言い続けてくれました。」


「その声だけは。」


「意識を失う最後まで聞こえていました。」


「私は。」


「あの日、あなたに命を救われたんです。」


私は目を見開いた。


「あ……。」


雨の日。


道端に倒れていた男の子。


怖くて。


泣きながら救急車を呼んだ。


「あの時の……。」


「男の子?」


橘先生は静かに頷く。


私は思わず口元を押さえた。


「良かった……。」


「本当に。」


「助かって良かった……。」


涙があふれて止まらない。


橘先生は優しく目を細めた。


「病院で。」


「命の恩人のお名前を聞きました。」


「藤堂菫。」


「すぐに、藤堂家のお嬢様だと分かりました。」


「孤児だった私には。」


「あなたは、あまりにも遠い存在でした。」


「だから。」


「あなたに恥じない人間になろうと決めました。」


「勉強を続け。」


「研究に打ち込みました。」


「そんなある日。」


「私に養子縁組のお話をいただきました。」


「その時、初めて思ったんです。」


「これで、ようやく菫さんと肩を並べられるかもしれない、と。」


橘先生は少し寂しそうに微笑んだ。


「ですが。」


「その頃には。」


「あなたは、すでにご結婚されていました。」


私は胸が締め付けられた。


「忘れようと思いました。」


「だから海外へ渡りました。」


「研究だけに人生を捧げようと決めたんです。」


「ですが。」


「忘れることはできませんでした。」


「そして。」


「あなたが離婚されたことを知りました。」


「もう一度だけ。」


「あなたに会いたい。」


「そう思って日本へ戻ってきたんです。」


私は涙をぬぐった。


橘先生は静かに立ち上がる。


そして。


私の前に立った。


「あの日。」


「あなたは。」


「名前も知らない私の命を救ってくださいました。」


「そして今。」


「あなたは私に、生きる喜びをもう一度くださいました。」


私は言葉を失った。


胸の奥で、何かが音を立ててほどけていく。


橘先生は一度、大きく息を吸う。


「菫さん。」


「私は。」


「あの日からずっと。」


「あなたをお慕いしていました。」


「私と。」


「結婚してください。」


まっすぐに見つめてくる彼の瞳は、


ひたすらに真摯で、温かかった。


元夫に


「お前を愛するつもりはない」と


突き放され、


誰からも必要とされていないと絶望していた私の世界に、


彼はまばゆいほどの光を連れて現れてくれた。


私が何気なく差し伸べた小さな優しさが、


十六年の時を超えて、


一生を共に歩みたいと願ってくれるほどの愛になって返ってくるなんて。


止まらない涙の向こうで。


私は、世界一幸せな返事をするために、


深く息を吸い込んだ――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


本作は毎日12時30分に1話ずつ更新予定です。


また、第5話・第10話・第15話・第20話ではイラストを掲載予定です!

ぜひお楽しみに!


「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

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次回もよろしくお願いいたします。

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