第17話 愛人の嘘が暴かれる
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第17話 愛人の嘘が暴かれる
翌日。
恭弥は会長室へ呼び出されていた。
部屋へ入ると。
そこには、すでに美玲が座っていた。
(もしかして……。)
(今日こそ結婚を認めてもらえるのかしら。)
美玲は期待を隠しきれず、口元を緩めていた。
恭弥が席に着く。
会長は机の引き出しから、一冊の分厚い封筒を取り出し、恭弥の前へ静かに置いた。
「開けてみろ。」
短い一言だった。
恭弥は封筒を開く。
そこには。
『白石美玲 調査報告書』
そう書かれていた。
恭弥は驚き、九条会長を見る。
「誰が、このような調査を……。」
「私だ。」
「藤堂家との共同事業解消を機に、
私はお前たちの周辺を徹底的に調べさせた。」
その一言だけで。
恭弥の背筋に冷たいものが走る。
「読んでやろう。」
九条会長は報告書を手に取った。
「白石美玲。」
「複数の男性との交際を確認。」
一枚目の写真が机へ置かれる。
美玲の笑顔が消えた。
「違います!」
「仕事のお付き合いです!」
九条会長は淡々と答える。
「仕事でホテルへ入るのか。」
美玲は息をのんだ。
九条会長は次のページを開く。
「競合企業社員との接触を複数回確認。」
「九条グループの開発情報を提供した疑い。」
「そんな……。」
「証拠はありません!」
会長は一枚のメールを机へ置いた。
「これは、お前が送信したものだ。」
美玲の顔色が変わる。
「違います……。」
「誰かにはめられたんです!」
九条会長はため息をついた。
「見苦しいな。」
さらにページをめくる。
「高額な入金記録。」
「ブランド品の購入履歴。」
「情報提供による謝礼と判断される。」
美玲の肩が震え始める。
「違います!」
「全部プレゼントです!」
九条会長は聞く耳を持たない。
最後のページを開いた。
「録音記録。」
部屋に音声が流れる。
『子どもなんて大嫌い。』
『菫の娘なんて、可愛いと思ったこともないわ。』
美玲は青ざめ、小さく首を横へ振った。
その肩は目に見えて震えていた。
恭弥はゆっくり顔を上げた。
「……嘘だ。」
声が震えていた。
音声にはまだ続きがあるようだ。
『早くあの子がいなくなればいいのに。』
『そうすれば恭弥様は私だけのものになる。』
恭弥の手から報告書が滑り落ちた。
拳が小刻みに震えている。
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
九条会長は音声を止めた。
部屋は静まり返った。
しばらくの沈黙のあと。
恭弥は悲痛な表情で美玲を見つめる。
信じていた女性の声が、
何度も頭の中で繰り返される。
「……美玲。」
「私を騙していたのか。」
その一言だった。
美玲の表情が一変する。
「何よ!」
「いつまでたっても結婚してくれないからじゃない!」
「お父様には逆らえないクズ男!」
「全部、あんたが悪いのよ!」
九条会長は静かに秘書へ視線を送る。
「弁護士には、すでに連絡してある。」
「情報漏えいについては、民事・刑事の両面から法的手続きを進める。」
「会社へ与えた損害についても、損害賠償を請求する。」
美玲の顔から血の気が引いた。
「そ……そんな。」
「警備を。」
九条会長の一言で警備員が部屋へ入ってくる。
「離して!」
「私は悪くない!」
「全部……。」
「全部、菫のせいよ!!」
美怜は狂ったように叫びながら、
警備員によって会長室から引きずり出されていった。
バタン、と重い扉が閉まり、
部屋に冷徹な静寂が戻る。
恭弥はただ、魂が抜けたように
床を見つめて立ち尽くしていた。
九条会長はそんな哀れな息子を、
心底軽蔑しきった目で見下ろす。
「……恭弥。」
「お前は人を見る目も。」
「守るべきものも。」
「何一つ見えていなかった。」
「父さん……俺は……」
「言い訳は聞かん。
……して、例の共同開発の契約はどうなった」
恭弥は全身の血の気が引くのを感じながら、
ゆっくりと頭を下げた。
「……完全に、断られました。
菫からも、橘先生からも……」
「そうか。」
冷たい、短い返事だった。
「今日をもって、
お前を九条グループの後継者候補から完全に外す」
恭弥はガタガタと膝を震わせ、
目を見開いた。
「会社からの信用。」
「藤堂家との信頼。」
「そして、後継者という地位。」
会長は冷徹に言い放った。
「お前は、自らの愚かさと強欲さで、そのすべてを失ったのだ」
恭弥はもう、何も言い返せなかった。
机の上には。
白石美玲の調査報告書。
そして。
世界的研究者となった藤堂菫の記事が載る新聞。
失ったものと、
選んでしまったもの。
その対照的な二つが、
恭弥の目の前に並んでいた。
恭弥は、
自ら捨てた幸せの大きさを、
絶望の中で、ようやく理解し始めていた。
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