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35 カークランドへ

35 カークランドへ


 そっと会場を抜け出し、そのまま王宮に向かった。すると、国王への謁見は意外なほど簡単に叶った。爵位って、すごい。ジュディスは改めて自分に与えられたこの肩書の真価に慄いた。しかし、通されたのは謁見の間ではなく、国王の執務室だ。


「陛下、突然の謁見の申し出を受けてくださりありがとうございます。」

「うむ。気にするな。私も、もう一度そなたとは膝を交えて話がしたいと思っていたところだ。して、申し出と言うのは、隣国ターラントのことだろうか?ここは謁見の間ではない。肩の力を抜いて、話してくれ。」

「陛下、感謝申し上げます。おっしゃる通り、ターラントに関することです。先ほど、騎士団のみなさんが出発されました。私事ですが、身の回りの人々にも影響が出ております。未だ、自分の力が自覚できないままの私ですが、もし私の治癒魔法が役に立つなら、助けたいのです。渡航許可をいただけないでしょうか。」


 薙いだ表情で話を聞いていた国王は、じっとジュディスの表情を伺って確かめた。


「そなたの真の力は治癒魔法ではないだろう。まだ自覚がないというのか?それとも、本当に無自覚なのか? ふぅ、もし、他国でそなたの魔力が本物だとばれてしまったら、この国だけでなく、他国からも狙われるだろう。その覚悟はできているか?」

「それは…」


 ジュディスは言葉を途切れさせ、唇を噛み締めた。そして、すっくと顔を上げると、決意を新たにした。


「陛下、お願いがあります!」


 ジュディスの願いに目を見開いて驚いた国王だったが、その覚悟は固く、受け入れられることとなった。


「陛下、願いを受け入れてくださって、ありがとうございます。では、行って参ります。」

「ふう。そなたが一般人にこだわるのなら、そんな危険な場所に行く必要はないのだがな。」

「いいえ、一般人の私でも、この国の一員としての矜持があります。」

「ふっ、その言葉、貴族たちにも聞かせたいものだ。では、その胸にあるサファイアのネックレスを。」


 国王の一言で、傍に居た文官が、ジュディスの胸に輝くネックレスをそっと外して国王に手渡した。


「あ、あの。それは祖母からいただいた大切な…」

「ああ、分かっている。大切だからこそ預かるのだ。無事に帰国して、必ず取り戻しに来るのだぞ。」

「陛下…、ありがとうございます。」


こうして、国王と密約を交わしたジュディスはすぐさま帰路についた。自宅に戻ると、エミーが姉の元に向かうべく馬車を出しているところだった。


「エミー、さっき騎士団の方々がオルコットに向かわれたわ。私も現場に向かおうと思うの。近くの町まで乗せてもらえるかしら。」

「ジュディス様!もちろんです。私は、カークランドで降りますが、そこで情報を得て、それ次第でオルコットに向かわれるのが良いかと。カークランドからでしたら、馬車なら2時間ほどで行けますから。」


 朝はあんなに取り乱していたエミーも覚悟を決めたのか引き締まった顔つきになっている。ジュディスは、エリクを再びクレアのいる会場へと送り出し手早く支度をすると、馬車を乗り換えてすぐさま出発した。使用人たちにはオルコットに向かうと話しているが、そこから先については口外しないことが国王との約束だ。ジュディスは胸に揺れるウィリアムのタグを握り締め、大きく深呼吸した。


 王都からカークランドまでは、馬車でもまる一日かかる。エミーは、不安をかき消す様に職場でのことを楽し気に話して聞かせた。バーリスとダーラの選択眼は素晴らしく、みな真面目で穏やかだ。もうすぐやってくる戦いから少し目を背け、ジュディスはほっと心の中で息を吐いた。


「調理師のトムさんは、モニカ様にすごく憧れているんです。きれいだし、上品だし、怒ると怖いけど、誰にでも平等に接してくださるから、私もその気持ち、分かるなぁって思っています。」

「そうね。モニカには、私もいろいろ助けてもらっているわ。」

「あ、そうだ!チャドさんから預かっている物があったんです。」


 エミーはカバンの中をごそごそ探し、手紙を出してきた。


「これを、ジュディス様に託してほしいって。もし、トレーシーさんに会えたら、渡してほしいそうです。それから、こっちはジュディス様に。焼き菓子の詰め合わせですって。次の休憩で、お茶を淹れますね。」


 馬車の窓から見えるのは、穏やかな風景ばかりだ。本当に魔物が迫っているのだろうかと疑ってしまいたくなる。それに、国王から護衛をつけると言われたけれど、そんな様子はない。申し訳なくて遠慮したのだけれど、本当にどこかから見守っているのだろうか。ジュディスは窓から少しだけ顔を出して様子を伺うが、それらしい人物は見つけられなかった。


 陽が沈む頃、エミーの姉夫婦の暮らすカートランドに到着した。


「エミー? まぁ!エミーじゃない!どうしたの?来るなら来るって連絡してよ。でも丁度良かったわ。お祝いしようと思っていろいろ買ってきてたから。」

「ジュディス様、こちらが姉のドーラです。お姉ちゃん、こちら、私の雇い主のジュディス・アンブラ―様よ。 」

「姉のドーラです。まぁ!いつも妹がお世話になっております。おっちょこちょいでちゃんと役に立ってるかどうか心配していたんですよ。」

「突然訪ねてきて、ごめんなさい。ジュディス・アンブラ―です。エミーは素直で優しいから、良くしてもらっています。エミー、お姉さまがお元気そうで良かったわね。」


 ジュディスに言われて、旅の目的をすっかり忘れていたエミーはハッとした。


「そうでした!お姉ちゃん、オルコットに行ってたんじゃないの?魔物が出るって聞いたから、慌てて様子を見に来たのよ。」

「ああ、手紙を出してから、予定が変更になっちゃったのよ。花嫁さん、他の男とかけおちしちゃったのさ。まったく、みっともない話さ。それよりも、どうぞ、中に入ってゆっくりしてください。きれいな屋敷じゃないですが、部屋数だけはたくさんあります。」


 ドーラが招き入れると、こじんまりとしているが温かな生活感のある屋敷だった。


「お義兄さんは?」

「ああ、嫁に逃げられた情けない男を躾直すとかって言って、弟の家に泊まり込みさ。どうせ一緒に酒でも飲んでるんだろうさ。それならこっちはこっちで女子会と行きましょうよ。」


 豪快な姉のもてなしで、その日はゆっくりと体を休めることが出来た。


「ジュディス様、どうかお気をつけて。エミーには先にお屋敷に戻るように伝えておきます。帰りには、是非、ここにも立ち寄ってください。」

「ドーラさん。本当にお世話になりました。エミーの事、よろしくお願いします。では。」


 翌朝、早いうちに、ジュディスは馬を借り、オルコットへと向かった。しばらく行くと、大きくなぎ倒された並木や、壊れた家屋がちらほらとみられるようになった。適当なところで店に入って昼食を取っていると、被害に遭ったという客たちの話もちらほらと聞こえて来た。

 気を引き締めなければ。ジュディスは決意を新たにした。その時、外で激しく鐘の音が打ち鳴らされた。


読んでくださってありがとうございます。

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