22 脱出
22 脱出
どこかで聞いたような名前に、不安な気持ちが立ち込める。やっぱり何か企みがあったんだ。最初から、おかしいとは思っていたけど。ジュディスは俯いて唇を噛んだ。その時、再びセラフィーナがやってきた。
「あら、セドリック様がこちらだと伺ったので来てみたら、あなた、まだこんなところをうろついているの?姿を消してちょうだい。」
「おいおい。随分手厳しいな。」
ぷーっと頬を膨らませて、抗議の意思を露わにするセラフィーナを、楽しそうに見ているセオドリックだった。
「では、控えの間に移らせていただきます。」
侍女たちがオロオロする中、ジュディスはさっさと侍女の控えの間に移動した。一緒についてきたカーラが、心配そうにジュディスの様子を伺っていたが、ジュディスは何か思うところがあったのか、挫けたりせずさっさと荷造りの手配を頼んだ。
「あの、ジュディス様、本当にここを出られるのですか?」
「ええ、そのつもりです。セオドリック様には置手紙をいたします。お手紙の準備をお願いできますか?カーラさん、短い間でしたが、ありがとうございました。ブリジッドさんやヘレナさんにもよろしくお伝えください。セラフィーナ様は決して問題児ではないと思うので、見守ってあげてくださいね。」
そういうと、侍女用の小さな机に向かった。
しばらくすると、セラフィーナが部屋を出ていくのが分かった。ジュディスはそっとその後を追いかけて声を掛ける。
「セラフィーナ様、少し、お時間いただけますか?」
怪訝な顔で振り向く令嬢に、一瞬ひるみそうになるが、引き下がるわけにはいかない。
「私には、ここを出る手段がございません。荷物を詰めておりますので、ただ一度だけ、ここを出る手助けをしていただけないでしょうか?私には、セオドリック様とご一緒するのは荷が重すぎます。セラフィーナ様のような方でなければ駄目でしょう。」
「あ、あら。やっと分かったようね。私に従って出ていくと言うなら、助けてあげなくもないわ。ただし、公爵様のタウンハウスから少し離れたところまでよ。いいわね。」
「ありがとうございます!」
ジュディスはセラフィーナの馬車に便乗して、うまく公爵家の敷地から抜け出すことに成功した。よかった。やっと自由に動ける。しかし、安堵する暇はなかった。先ほどのセオドリックの言葉がひっかかるのだ。早く帰って、おばあ様に情報を聞きたい。気持ちばかりが焦った。
「ほら、私が乗せてあげるのはここまでよ。もう二度と来ないでね。」
「はい。ありがとうございました。あの、これは、セオドリック様の取り巻きの貴族の方々が私にいろいろお話された内容をまとめたものです。今後、セオドリック様の奥様になられた時、もしかしたら、役に立つかもしれません。」
「え?どういうこと?あなたはブリジットの味方ではなかったの?」
怪訝な顔のセラフィーナに、ジュディスは満面の笑顔で答えた。
「いいえ。ブリジット様の事も大好きです。ブリジット様には、たぶん他に好きな人がいらっしゃるみたいなので。どうか、お元気で。」
「まあいいわ。さ、馬車を出して。」
そのまま馬車は動きだし、セラフィーナが振り向くことはなかった。やっと帰れる。ジュディスは乗合の馬車を探して歩き出した。すると、すぐ近くで急に馬車が停まる音がした。
「ジュディス嬢? ジュディス嬢ではないか?」
「シェリダン伯爵様!ご無沙汰しております。」
馬車から声を掛けたのは、シェリダン伯爵だった。伯爵は、馬車から飛び降りるようにして駆け寄ると、ジュディスをすぐに馬車に乗るように勧めた。
「すぐに身を隠した方がいい。今、貴族の間では、君の事がうわさになっているんだ。」
伯爵の馬車に乗り込むと、窓のカーテンを閉め、すぐに馬車を走らせた。
「あの、私…。ここしばらくの間、タウナー公爵家に…。」
「ああ、分かっているよ。セオドリック殿が囲い込もうとしたんだろ?貴族の間では、君がセオドリック殿に迫って籠城していると言われているが、そんな訳がない。ウィリアムに、南の隣国レヴィンスに近い辺境地への出向が言い渡された。数年前から動きが怪しいとされている国だ。セオドリック殿からの直接の命令のようだ。意図は見え透いている。団長殿も納得できないとおっしゃっていたよ。陛下に認められた正式な婚約者から君を奪い取ろうとするなんて、まったくあくどいことをするもんだ。君の失踪に気付いたら、彼らも黙っていないだろう。今は、アンブラ―家に戻らない方がいい。」
「そ、そんなことになっていたんですか?私のせいで、ウィリアム様が…。」
ジュディスのこぶしが握りしめられ、震えているのが分かる。バートランドは、自分の危機より息子を案じてくれる、この素朴で真っ直ぐな少女を守ってやらねばと強く心に誓った。
「安全とは言えないだろう。だが、今は祈ってやるしかない。そして、君が無事でいることがなにより大切だ。よく逃げ出してこられたね。」
「はい。周りの方々に助けていただきました。」
バートランドは大きく頷いて、しばらくはシェルダン家に匿うことを告げた。
「クレア殿には、私から手紙を出しておこう。これからのことは、クレア殿とも相談していけばいい。」
「ありがとうございます。」
ジュディスはやっと肩の力を抜いて、深いため息をついた。二人を乗せた馬車は、無事にシェルダン邸へと入っていった。
読んでくださってありがとうございます。
よろしければ、ブックマーク、評価、感想などお願いします。




