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21 最強の婚約者候補

21 最強の婚約者候補


「私の婚約者を横取りしようなんて女はどこにいるの?!」


 突然ドアが開け放され、豪華なドレスに身を包んだご令嬢がツカツカと入ってきたのだ。侍女たちが慌てて席を立ったのは言うまでもない。ノックもなしにやってきたご令嬢は、部屋の中を見回すと、まだ席に着いたままのジュディスを見つけて近づいてきた。


「ちょっと、貴方も他の侍女を見習ってさっと立ちなさい!あら、…見かけない顔ね。新しく入った新人なの?」

「えっと。違います。」

「はぁ?要領を得ない子ね。貴方、名前は?」

「ジュディス・アンブラ―と申します。」


 ジュディスが慌ててカーテシーをすると、ふんと鼻息の荒いまま言い放つ。


「いいわ。貴方、この部屋に居座っているっていう女を呼んできなさい!」


 優雅なセンスをパチンと締めると、そのままジュディスの前に突き出して命令してきた。


「セラフィーナ様、どうか、落ち着いてください。セオドリック様のご婚約者候補であるジュディス様のお部屋にノックもせずに入室されるのは、あまりにも失礼にあたります。」

「出たわね、ブリジット・カールトン!貴方だって腹立たしいはずよ。急にやってきた女に横取りされるなんて。」

「いいえ。ジュディス様はとても素敵な方ですわ。それに、この婚約は、セオドリック様のご意志です。」

「はぁ?なんですって?じゃあ、このみすぼらしい子がセオドリックの選んだ女だって言うの?冗談じゃないわ!ちょっと貴方、さっさと出て行きなさいよ!何が目当て?お金?」


 騒ぎを聞きつけた執事・リオンがやってきて、セラフィーナを別室に誘った。


「セラフィーナ様、セオドリック様の執務室にはもう行かれましたか?まずはご挨拶などされては?」

「ちょっとリオン、あの女をどうにかしなさいよ!」


 セラフィーナのわがままには慣れているのか、執事はすました顔で頭を下げる。


「その件につきましても、ご本人から聞かれました方がよろしいかと。」

「もう、分かったわよ。貴方、さっさと出ていく準備をなさいね!」


 最後まで、敵意をむき出しにしてセラフィーナは去っていった。セラフィーナを部屋から追い立てながら、ふと執事が振り向いて会釈すると、侍女長がいつになく柔らかな表情でそれに答えた。


「ふう。今回も派手な登場でしたわね。」

「ジュディス様、もう大丈夫です。お茶を淹れなおしてまいりますね。」


 一仕事終えたような侍女たちの様子で、今までどれだけの被害を被っていたのかが推測出来て、ジュディスも大きく息を吐いた。しかし、それからも、受難は続くことになった。うわさを聞き付けた貴族たちが、ジュディスが自分にとって有益かどうかを探りに次々と訪れたのだ。


「失礼しますよ。こちらにセオドリック様と婚約予定のご令嬢がいらっしゃると伺いましてな。おや、こちらの侍女殿は、新入りさんかい?」

「うちの娘と同世代の方が、セオドリック様のお屋敷にすんでいらっしゃるとか、随分と厚かましい方ですのね。え?こちらの方が?まあ、こんなみすぼらしい者が?何かの間違いでは?」

「貴方、何を考えているの?財産目当てなら、無理な話よ。早々に出て行きなさい。」


 やってくるのは上位貴族で、年頃の娘を持つ者がほとんどだ。そして、ジュディスのことを品がない、淑女らしくない、美しさに欠けるなどと言いたい放題で、ジュディスの心をえぐり続けた。


「それにしても、侍女長様。もう随分経ちますのに、セオドリック様は一度もこちらにお見えになりませんね。」


 心配そうな声でカーラがぽつりとつぶやくと、侍女長も何とも言えない心地になるのだった。ジュディスはすっかり自信を失い、侍女たちに向けていた笑顔も見られなくなっていた。時折、窓の外を眺めては、ため息をつく姿に、ブリジットは行動を起こす決心をした。


「ジュディス嬢、やっと私に会いたくなったか?」


 意気揚々とやってきたセオドリックは、ジュディスの変わりように驚いた。


「どうした? 私は、そんなみすぼらしい顔を見たいわけではないぞ。」

「申し訳ございません。」

「あの騎士に向けていたような姿を、私に向ければいいだけではないか。何が不満なのだ。」


 イライラを募らせるセオドリックに、ジュディスから返す言葉はなかった。


「あの、旦那様。恐れ多いのですが、ここ数日、ジュディス様のお傍で仕えていた者として、お話してもよろしいでしょうか?」

「なんだ、ブリジット。珍しいな。言ってみろ。」


 思い通りにならない事に苛立ったまま促すと、侍女長はぎゅっと手を握り締めて発言した。


「野に咲く花をきれいだからと引き抜いて、上等の植木鉢に植え替え豪華なお部屋で育てても、しおれてしまう物です。ジュディス様は、仕事をなさっていたからこそ、輝いて見えたのではないでしょうか?」

「なんだと? こんなに贅沢な暮らしをしておきながら、仕事がしたいだと?まったく、理解に苦しむな。ここ数日は、貴族連中も挨拶に訪れていただろう。気の合う友になれるだろうと、同じ年頃の令嬢も多数来たはずだが?」

「ええ、皆さん、強烈な嫌味や蔑みの言葉を残して行かれました。今回の事で、他の貴族の方々のお考えが随分とはっきり致しました。後程、報告をまとめてお渡しする予定です。」


 それにはセオドリックも絶句した。少なくとも、私情をはさまず常に公平な侍女長がここまで言うとは、想像もつかなかったのだ。侍女長の援護射撃に勇気をもらったジュディスも思い切って声を掛けた。


「セオドリック様。どうか、今一度、お考え直しください。セオドリック様の周りには、もっと素晴らしい淑女がいらっしゃいます。公爵家のこれからを考えて、冷静に行動できるブリジット様や、美しく優雅で、セオドリック様を深く慈しんでおられるセラフィーナ様、私など、本当に取るに足らないほど、素晴らしい方々です。」

「しかし、セラフィーナは治癒魔法が出来ない。」

「生涯の伴侶を、魔法の力だけで決めてしまっては、後々の人生が寂しい物になりかねません。」

「まったく、頑固な女だな。今更ここを出たところで、アイツは王都にはいないぞ。」


 にやりと口の端に笑みを浮かべて言うと、どかっとソファに座り、ジュディスにも隣に座れと指で合図する。しかし、ジュディスがそれに応じることはない。


「どういうことですか?」

「ふふ。それは次にクレアにあったら尋ねるといい。まぁ、その機会は結婚式までないだろうがな。まったく、クインシーも悪い奴だよな。」


読んでくださってありがとうございます。

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