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20 公爵家の侍女たち

20 公爵家の侍女たち


 セオドリックが言い放つと、その場にいたすべての人が動きを止めた。怪訝な顔をする者、眉を寄せる者、ジュディスの方をジロっと睨む者。誰一人、好意的な者はいない。もちろん、ジュディス本人が一番困っている。確かに祖母からもそれらしいことは言われたが、まったく自覚がないのだ。それなのに、こちらの意志は完全無視で婚姻を強要するなんて。


「セオドリック様。どうかお考え直しください。私はこのような華やかな場所に招待していただくだけでも恐れおののくような一般人です。貴方様に仕えている方々にも申し訳が立ちません。それに、…私には大切に想っている人がいます。国王陛下にも婚約を認めてもら…。」

「ああ、シェリダン伯爵の次男坊だろ?外見は整っているが、別段富豪というわけでも爵位があるわけでもないじゃないか。気にするな。父上は侯爵の爵位も持っている。兄上が公爵となっても、私は侯爵の爵位を譲り受ける。一介の騎士より優雅な暮らしができるだろう。」

「そんな…。」

「そんなに自分を卑下するな。私に何かあった時には、その魔力で助けられる。それだけでも十分存在価値がある。」


 取りすがって説得しようとするジュディスを、執事がせき止める。


「ご主人様、お部屋の準備が出来ました。」

「そうか。では、彼女を部屋に連れていけ。丁重にもてなすのだぞ。」

「承知いたしました。みなさん、参りますよ。」


 いかにも貴族令嬢と思われる侍女長が、数人の侍女を連れてやってきた。侍女たちは、すっと目を細めてジュディスを見ると、「こちらへ」と、温度の無い声で促した。仕方なく付いて行くジュディスには目もくれず、侍女達が連れて来た部屋は、恐ろしく豪華で広い部屋だった。部屋に入ったまま、ぽかんと周りを見渡している姿に、侍女たちはため息交じりに言う。


「ジュディス様、ご自分の立場をご理解されていますの?」

「私たちを差し置いて、どういうおつもり?」

「ここで働く侍女は、みんな婚約者候補ですのよ。それなのに、どうしてあなたのような人が…。」

「貴方たち!セオドリック様のお客様に対して失礼ですよ!」


 部屋に入った途端、口々に不満を言い出す侍女たちを一括して、侍女長らしき女性が改めてジュディスに向き合った。


「ジュディス様、大変失礼かと思うのですが、そのようにだらしない顔で…こほん。失礼しました。そのようにおっとりとなさっていては、公爵家の人間としてふさわしくございませんわ。もう少ししゃきっと…。」

「そう!そうなんです!私なんかが公爵家の方のお相手など出来るはずがないんです!こんなにお綺麗なご令嬢たちがお傍にいらっしゃるのに。私だって、こんなことおかしいと思っています。だから、どうかこのままそっと逃がしてもらえませんか?」

「は?逃がす…?申し訳ございませんが、それは出来かねます。セオドリック様の言葉は絶対でございますので。」


 侍女長はきっぱりと言い放った。それにはジュディスも言い返せず、肩を落として黙り込んだ。


「今、お茶をお持ちします。ほら、貴方たちはきちんと仕事をなさい。くだらないいやがらせは全部報告しますよ。」

「はーい。」


 不服そうな侍女たちを連れて、侍女長は部屋を引き上げていった。広い部屋にポツンと残されたジュディスは、思わず大きなため息をついた。ほどなくして、侍女長が再び侍女を連れてやってきた。


「本日の紅茶はレディ・グレイでございます。お好みを伺っておりませんので、いくつかお菓子をご用意させていただきました。私は、侍女長を務めておりますブリジット・カールトンと申します。こちらにおりますのは、カーラとヘレナです。私たちでジュディス様のお世話係をさせていただきますので、なんなりとお申し付けください。」

「あの…、ジュディス・アンブラ―と申します。では、お願いしたいことがあります。」


 ジュディスからのお願いは、侍女たちを驚かせるものだった。紅茶を3人分追加させ、侍女たちにもテーブルに着くよう願い出たのだ。


「ジュディス様、私たちは使用人です。公爵家に名を連ねる方と同席するなど、許されるものではありません。」

「いいえ。私などに上位貴族の方々と交流することは不可能です。ですが、ここから出していただけないなら、せめてここに居る間は、皆さんのその淑女としての所作を学びたいと思うのです。それに、一般人の私にとってお茶の時間は、みんなで語らいながら過ごす温かな交流の時間なのです。皆さんの事もぜひ教えてください。」

「まぁ…。」


 侍女たちは顔を見合わせて戸惑っていたが、淑女教育に連なるならと侍女長が許可を出すことになった。席に着いたブリジットの淑女教育は、なかなかに厳しい物であったが、姿勢よく過ごせるようになる頃には、それぞれの侍女たちとも笑顔で話が出来るようになってきた。

 侍女長のブリジットは伯爵家の令嬢で、実はセオドリックの婚約者の最有力候補だった。そんなことはおくびにも出さないその姿勢に、ジュディスは尊敬の念を覚えるのだった。侍女長らしく髪をきっちりと結い上げ、いつも誠実そうな表情を浮かべている。ここまで感情のコントロールができないと、公爵家ではやっていけないのだろうと、驚くばかりだ。

 一緒に席に着いている二人は、初日に文句を言っていた侍女たちとは違う顔ぶれだ。ミルクティ色の髪に琥珀色の瞳が穏やかな印象のカーラは子爵家令嬢で、どちらかといえばおとなしい印象だ。ヘレナな黒髪にエメラルド色の瞳が神秘的な男爵令嬢だが、実家のビジネスが好調で、新しい物が大好きな好奇心旺盛は性格だった。二人に共通するのは、セオドリックとの婚約を望んでいないことだ。親の指示で行儀見習いとして働いているという。


「でも、本当にびっくりしましたよ。セオドリック様にはこれまでたくさん縁談が来ているのに、全然興味を示されなかったんですよ。それなのに、急にジュディス様を引きずり込むなんて。」

「これ、ヘレナ。そんな言葉遣いをするものではありませんよ。ジュディス様、もう少し顎を引いてください。」


 すっかり仲良くなったヘレナが、眉をしかめて言うと、すかさず侍女長の注意が飛ぶ。


「そうよね。お話していて、ジュディス様が素敵な方だと分かったけれど、セオドリック様の強引さには、少し驚きました。私はてっきり、侍女長様と婚約なさると思っていたので。でも、あの方が諦めてくれるなら、それはそれでほっとします。」

「あの方?」

「そうそう!セラフィーナ様が奥様になられたりしたら、私、このお仕事は続けられないと思っていたわ。」


 カーラがおっとりと話すと、ヘレナも乗ってくる。侍女長はコホンと咳払いをして説明した。


「セラフィーナ様は、セオドリック様の従兄弟にあたる方なのです。幼いころから、歳の近いセオドリック様に懐かれていて、セラフィーナ様の中では、自分こそがセオドリック様の婚約者に相応しいと、よく周りの方にお話されていて。」


 侍女長の眉がかすかに下がって、いろいろ不都合がありそうだとジュディスは不安を募らせた。そしてその不安は、その日の午後には現実のものとなった。


読んでくださってありがとうございます。

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