17 空ぶりのプロポ―ズ
17 空ぶりのプロポーズ
ジュディスが誘拐されたと聞いて打ちひしがれていたウィリアムの元に、団長がやってきた。
「だ、団長!彼女は、ジュディス嬢は、無事なんですか!」
「落ち着け。それで、毒の影響はもうないのか?」
すがるように団長に迫るウィリアムの背中をポンポン叩きながら、落ち着かせる。
「俺の事はいいんです。彼女になにかあったら、俺…。」
「まさか、こんなことになるとはなぁ。おまえ、これからどうする?」
縋り付いていた腕の力がふいに抜けた。ウィリアムは瞠目し、膝から崩れ落ちた。
「え、まさかって、…まさか、そんな!団長!!」
ウィリアムが再び団長に言い募ると、そこには今まで見たこともないような団長の笑顔があった。
「ふふっ。おまえ、とんでもない女性を見初めたもんだな。入ってくれ。」
ドアが開いて現れたのは、ジュディスだった。
「あの…、大変な時に心配をおかけして、ごめんなさ…。」
ウィリアムは最後まで聞くことなく、ジュディスを抱き締めた。
「良かった。君が無事でいてくれて。本当に良かった。」
「いいえ、私の事なんかより、ウィリアム様のお体が大事です。その、仕事先で怪我をなさったとシェルダン伯爵様に教えていただいて、心配で…。」
そういうと、腕の中からじっとウィリアムの顔色を窺い、はぁっと大きく息を吐いた。
「よかった。ウィリアム様が怪我をされたと聞いた時は、私…。」
「まぁ、どっちも良かったな。こうして元気な状態で再会できたんだ。しかしなぁ。彼女は随分と肝の据わった女性だな。」
団長はそう言って、救出に向かった先での光景を話して聞かせた。
「まったく、大した女性だよ。下働きのサムってやつは、誘拐の実行犯なのに、すっかり彼女に絆されてるし、俺が驚いていると、彼女を責めないでくれなどと逆に庇うような始末だ。まったく人たらしな女性だぜ。ウィルもうかうかしていられないぞ。」
からかう団長の言葉に、ウィリアムは思わずジュディスの前に片膝をつき、片手を差し出した。
「ジュディス嬢、俺と結婚してくれ!他の奴になんて、取られたくないんだ!」
「う、ウィリアム様…!」
顔を真っ赤にして目を見開いていたジュディスだったが、その胸にウィリアムには想い人がいるという噂が去来して、思わず唇を噛んだ。
「い、いいえ。私はただの一般人です。騎士様であるウィリアム様とはつり合いが取れません。」
その返事には、団長も思わず彼女を凝視した。しかし、唇を噛み締め、目には光るものがある。どうみても、やせ我慢にしか見えないその姿に同情を覚えるのだった。ウィリアムは、しばらくそのままの格好でじっと見つめていたが、ふぅっとため息をこぼすと立ち上がり、告げた。
「分かった。じゃあ、君が納得するまで俺はプロポーズし続けることにする。覚悟しておけよ。」
嫌われてしまうことを覚悟した断りだったが、ウィリアムの想わぬ返事に、ジュディスは涙が止まらない。
「お、おい、どうして君が泣いているんだ。な、泣き止めよ。泣きたいのは振られた俺の方なんだぞ。ほら、送っていくから、来いよ。」
ジュディスを労わる部下の姿に、眉を下げて見守る団長だった。
再会の日から数日が過ぎた。自宅に帰ったジュディスに待っていたのは、クレアからの注文だ。もうすっかり手慣れた染色だが、せっせと手を動かしながらもふうっと深いため息が続く。
「ジュディス、そんなにため息ばかりついていると、幸せが逃げていくわよ。」
「え?ああ、すみません。」
「最近のあなたが染めた青、随分美しくなっているわね。愛おしい気持ちと、それを隠さなければいけない切なさ、ってところかしら。」
「おばあ様!」
ジュディスは真っ赤になってしまう。季節は夏に向かっている。貴族たちからの注文は、爽やかな青空や青い海を描くものが多く、ジュディスの染め上げる青は「センチメンタル・ブルー」と名付けられ、注文は山の様にやってきた。
ウィリアムを傷つけたジャッキーとアディントン親子は、騎士団の手によって検挙され、地下牢に送られることになった。しかし、ジュディス誘拐について、アディントン親子は全く知らないと言い続けていた。ジャッキーは、その話を振られると急に怯えだし、意識を失ってしまう。不審に思った団長は、自分の記憶をじっくりと遡り、逆恨みしそうな人物がいなかったか調べ始めた。
ジュディスに絆されたいたサムは、騎士団の下働きとして、団長に一から鍛えられることになった。サムはジュディスの大ファンになって、彼女の優しさを団員たちに語って聞かせた。それを小耳にはさんだウィリアムは穏やかではない。
「おい、ジュディス嬢のことを軽々しく語らないでくれないか。」
「ウィリアムさん、どうしてそんなに意地になってるんです? まあ、彼女の事が気になるなら、俺に聞いてください。捉えられて尚、人を労わるあの心根の優しさったら…。そうだ。ジュディスさんは、お料理もお上手ですよ。あの時のシチュー、おいしかったなぁ。」
「おいおい、そのぐらいにしておけよ。そろそろ主催の公爵様が登壇される。ウィリアム、ショーン、頼んだぞ。」
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