12 アディントンとの攻防
12 アディントンとの攻防
一方、ケイシーたちの証言から、カジノと強盗のつながりを嗅ぎつけた騎士団は、潜入捜査に入ることを決定した。ウィリアムは髪を黒く染め、前髪を垂らして変装し、ショーンも長かった髪を刈り上げてすっかり雰囲気を変えていた。裕福な商家の息子を装った二人は、流行りのカジノに興じる若者に扮してはしゃぎ、ぬけぬけと負けを嵩ませオーナーの手に落ちた。
「お客さん、そんなに負けを増やしてちゃんと返せるんですか?少しこちらでお話をうかがえますかね。」
カジノの店員が二人に声を掛けた。当然二人は、素直にいう事を聞いて別室へと連行された。
「あの、お金はなんとかするから、待ってくれないか?」
「なんとかする? そんな当てがあるんですかね?ああ、親御さんに泣きつくんですか?なんなら、こちらから連絡して差し上げますよ。」
「ああ、それだけはやめてくれ!頼む!親には言わないでくれ!」
哀れに頼み込むショーンの言葉に、店員の顔がピクリと反応した。
「親に言えない?じゃあ、返済の仕様がないんじゃないですか?参ったなぁ。ちょっと待ってて下さいね。」
そういうと、店員は誰かを呼びに部屋を出た。ショーンとウィリアムは目配せして頷き合った。
カジノに潜入しているのは、もちろん彼らだけではない。他のチームも数名加わり、犯罪組織の実態に迫ろうとしていた。そして、騎士団長は、カジノのオーナー・ケビンではなく、その実家であるアディントン伯爵家に足を運んでいた。アディントン伯爵家は、魔道具が正常に機能するかを確認する王宮認定検査機関を管理していた。このような検査機関は、国内に数か所しかなく、ここで合格をもらえないと商品として売り出すことが出来ないため、多額の賄賂でぼろもうけしているという噂も流れている。それによって、粗悪品の魔道具が世に出回るということにも繋がっていた。
アディントン伯爵は、検査機関のことで取り調べられるのかと身構えながら団長に面会していた。
「お忙しい中、お時間を頂いて申し訳ないですね、アディントン伯爵殿。」
「ああ、大丈夫ですよ。それで、騎士団長様が直々にお越しくださるとは、どのようなご用件なのでしょう。」
「いやいや、大したことではないのですが、最近カジノが大流行ですが、どんなふうになさっているのか伺いたかったのですよ。」
団長が、なんでもないように話題に上げると、アディントン伯爵は自分に嫌疑が掛かっていないことに安心したのか、俳優まがいの演技を見せた。
「ああ、そうなんですよ。あれは次男のケビンが思いついてやりだしたことなんです。あれは、幼いころにいじめに遭って以来、外に出ることを怖がっていて将来がとても心配だったのですが、無事に社会復帰を果たしてくれてほっとしているばかりなんです。幼いころに母親を亡くし、ひきこもったままあれがこれからも一人で孤独な人生を送るのではないかと、それはそれは、心配しておりましたのでねぇ。それで、何か問題でもありましたか?やっと更生できたばかりの息子です。あまり不安になるようなことは言わないで頂きたいのが本音です。いや、これではダメは父親ですかねぇ。」
団長がそれ以上踏み込んだ質問を出来ないでいると、アディントンはさっさと執事を呼んで、お見送りするようにと指示を出した。
「何のお役にも立てませんでしたが、今後ともどうぞよろしくお願いします。私は、まだ仕事を残しておりますので、失礼いたします。」
団長が帰るのを見送ったアディントンは、すぐさま魔道具検査所のボイルを呼び出した。ボイルことジャッキー・ボイルは、本来は荒事の元締めだ。伯爵家に出入りするための肩書として、検査所の所長として使用人たちの目をごまかしている。
「ジャッキー、早速仕事をしてくれ。どうやら騎士団が何かを嗅ぎつけたらしい。奴らの動きを調べて来い。」
ジャッキーは赤茶の髪をかき上げて、片眉を上げると、「了解」と言って肩をすくめ、さっさと出かけて行った。
「お貴族様集団の騎士団に何ができるんだか、お手並み拝見だな。」
伯爵邸を出ると、震える手でマッチを擦って、煙草に火をつけた。
クレアの元に、シェルダン伯爵家の執事が訪ねて来た。ウィリアムが依頼していた刺繍絵を受け取りに来たのだ。本人が来ないことに気を落としていたジュディスの姿を、眉を下げて見ていた執事だったが、帰る間際にふいに戻って来てジュディスに声を掛けた。
「お嬢様、差し出がましいことを申し上げますが、ウィリアム様は決して不誠実な方ではありません。任務のため、もう2か月ほど自宅にはお戻りになっておられないのです。どうか、ご理解ください。ウィリアム様がお戻りになりましたら、きっとお嬢様にもご連絡させていただけると思います。」
知的で物静かな初老の執事は、その瞳でジュディスを落ち着かせるように頷くと、馬車に乗り込んで帰っていった。
「ジュディス様…。素直で愛らしいお方だ。素朴で穏やかな方なのに、この刺繍絵には魔法の使えない私ですら温かみを感じられる魔力が込められているのが分かる。」
執事・バーリスは、シェリダン邸に到着すると、すぐにウィリアムの部屋に刺繍絵を飾った。
「もしかしたら、ぼっちゃんはとんでもない方を射止められたのかもしれないな。早くお見せしたいものだ。」
放火や強盗が少しずつ減りつつあることは、バーリスの耳にも入っているが、ウィリアムが帰ってこないという事は、特別な任務を背負っていると思われた。
ウィリアムとショーンは、まだカジノ内をうろうろしていた。従業員の男に、店内で働けといわれたのだ。不慣れな様子でテーブルを拭いていると、世間知らずなご令嬢がケビンに声を掛けられた。何を勘違いしたのか、ご令嬢が金回りのよさそうなケビンに近づこうと、褒めちぎっていたのが発端だった。多くの客がいる中、突然そのケビンが奥の部屋に呼び戻されたかと思うと、殴り飛ばされ、ドアを破って壁に激突した。カジノに来ていた客も従業員も、茫然としていた。
「お前は誰のおかげで生活できていると思っているんだ!世間と関わるなと言っただろ!」
そして、この暴言とともに、のそりと事務所から出て来たケビンの父ブラッド・アディントンは、倒れている息子の胸倉をつかむと、そのまま事務所内に引きずり込んでいった。就業員たちは、はっとして、すぐに客をもてなし、なんでもない親子喧嘩だとごまかしていたが、騎士たちには、その後事務所内で行われている激しい暴力が簡単に想像できた。壁に響く音、時折音楽に紛れて聞こえるうめき声。ウィリアムとショーンは思わず顔を見合わせた。
一方、事務所の奥では、ウィリアム達が想像した通りのことが起こっていた。殴られ、蹴られ、もう立ち上がれなくなっている息子を、執拗に殴るブラッドを、怯えたように控えめに止めようと、執事見習いが声を掛ける。
「だ、旦那様。もう、その辺で…。店内にも響いております。」
その言葉に仕方なく制裁をやめると、ぐったりしている息子には目もくれず、さっさと部屋を出て行った。
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