11 連続する事件
11 連続する事件
そんなある日、裕福な商家の邸宅で火事が起こった。焼け跡からは、商家の家族が見つかったが、調査に来た騎士たちは、違和感を覚えていた。
「随分ひどい状態だな。キッチンの焼け具合はさほどでもないが、どこの出入り口も焼け具合がひどい。これは間違いなく不審火だな。」
「おい、通いの使用人に確認したが、やはり亡くなったのはここの家族全員だそうだ。それに、その仕様人に言わせると、金庫がなくなっているというんだ。」
「まぁ、放火に間違いなさそうだな。家主の頭の損傷が激しい。争った挙句の放火だな。」
騎士たちが聞き込みを始めると、あっさりと犯人は割り出すことが出来た。街のゴロツキではなく、下級貴族の令息だった。
「こんな平民の住宅地にやってくれば、それだけでも目立つのに、何食わぬ顔でやってきて、使用人に荷物を運ばせていたよ。あれは、油かなんかだったんだろうな。」
住民たちの声を聞くと、あまりにも世間知らずなやりようにあきれ果てた。そして拘束された男爵令息は、しおれ切った様子で、金に困ってやったのだと自供した。その事件を皮切りに、王都を少し離れた庶民の家が次々と襲われ始めた。ある者は火事で、ある者は強盗で、金品を奪われている。しかも、犯人は意外にもすぐに見つかり、そのいずれも金に困った貴族の若者だった。捕まった若者の中には、キャロライナと一緒にカジノに出かけていた者もいて、エドモンズ団長はすぐに首相に報告し、騎士団には夜回りの指令を出した。
「まったく、最近の若いもんはどうなっちまったんだ。あまりにも幼稚な犯行じゃないか。」
「ここ最近の犯人たちに共通するのは金に困ったことみたいですが、一体貴族令息たちがどんなことにお金を使い込んだんでしょうね。」
「ウィル、俺はカジノが怪しいと見込んでるんだ。先日のオーナーとの面談でも相当胡散臭かったしな。」
「カジノか…。エルヴィスさんはオーナーに会われたんですよね?」
夜回りをしながら、エルヴィスとウィリアムは今回の一連の犯罪について考えていた。カジノのオーナー・ケビンのことを思い出すと、エルヴィスは苦虫を潰したような顔になった。
「ああ、まったく、ひどい男だよ。俺たちの目の前でも、使用人を殴る蹴るするんだ。仮にだよ。あのカジノで金を使いすぎた貴族令息たちに借金を返済しろと強く出ていたら、どう思う?」
「しかし、だからと言って、すぐにこんな危ない橋を渡りますかね?まずは家族に相談するでしょう。犯罪に手を染めたとなれば、家名にも傷がつきますし、貴族令息なら、そのぐらい分かるでしょう?」
「ん~、そこなんだよなぁ。団長もその辺りが気になるらしい。さて、今日の夜回りはここまでだな。庁舎に戻ろう。」
二人が戻ってくると、暗い顔のショーンが待ち構えていた。
「ウィル、ちょっと相談に乗ってくれないか?」
会議室を陣取って落ち着いたショーンは、思わぬことを言い始めた。
「ケイシーと連絡が取れなくなったんだ。この前の休みにお茶会をするはずだったんだが、彼女が家にいないというんだ。向こうの家でも困惑している様子だった。少し前に、ケイシーからカジノに連れて行ってほしいと手紙が来ていたんだが、断ってしまった。怪しげなところには連れて行きたくなかったんだ。俺が思い当たるのは、それぐらいなんだが…。」
「おいおい、まさかとは思うが、彼女もカジノに行ったのか?いや、ここで悩んでいても仕方がないじゃないか。もう一度彼女の家族に詳しく聞いてみたらどうだ?」
「そ、そうだな。もう一度、伺ってみるか。」
強盗事件や放火も続いている今、まさかとは思うが、巻き込まれていてはシャレにならない。ショーンを励ましながらも、このところの事件の多さに眉を顰めるウィリアムだった。
事件が多くなってくると、狙われやすい家などの目星も付きはじめ、騎士団はあたりをつけて見回りをすることで、犯人検挙の件数を上げて行った。ただ、金に困ったという理由以外に共通点が見つからないことで、団長はなにか大掛かりな組織が動いているのではないかと推測していた。 その日も、ショーンとウィリアムは商人のような服装に身を包み、夜回りに出かけていた。何食わぬ顔で裏通りを歩いていると、ささっと路地に逃げ込む人影があり、二人はすぐさまその後を追った。
「そこで、何をしている?」
ショーンが肩に手を掛けると、怯えたように振り向いたのはケイシーだった。
「ケイシー!」
「ご、ごめんなさい!」
万事休すと頭を抱えるケイシーだったが、ショーンはその小さな体をぎゅっと抱きしめた。
「良かった。無事で良かった。…どうしてこんなところにいるんだ!!どれだけ心配したと思っている!」
喜んだり怒ったりと忙しいショーンの代わりに、傍に居た男たちはウィリアムが捕獲していた。
「ショーン、お前の気持ちは良く分かったけど、とりあえず庁舎に戻っていろいろ教えてもらおうじゃないか。」
「そうだな。ケイシー、もう危ないことをしてはいけないよ。ご両親もとても心配していたんだ。」
優しく肩を抱き締めて庁舎に連れて来たショーンだったが、取り調べは実に厳しかった。男たちと同等に厳しく追及された末、分かったのは、カジノで負けが嵩んだ者に、簡単に金を工面する方法があると持ち掛けらえたという事。そして、その男の特徴は、赤茶の髪を伸ばして顔を隠しているということと、左手がわずかに震えていたということ。その手掛かりを元に、操作は進み、騎士団は一層忙しくなって、2か月あまり休日が取れない状態が続いていた。1日の任務を終えて帰宅するのは深夜だ。ベッドに体を横たえてウィリアムはふと、ショーンがケイシーを見つけたときのことを思い出していた。自分にも、何か支えになる物があれば…。そして、クレアに一通の手紙を送ることにした。
ウィリアムから手紙が届くと、クレアはジュディスを呼んで刺繍をしてみないかと問いかけた。
「さっき、騎士様から依頼が来たのよ。高価な物は買えないが、小さなフレームに飾れる刺繍絵が欲しいと。髪飾りのお礼をしたいなら、貴方が刺繍をしてみたらどうかしら。」
「わ、私が、ですか?」
「昼間の染色は続けてほしいけど、夕食後なら、特別に指導してあげるわ。」
図案を考え、糸を染め上げ、いよいよ刺繍に掛かる。随分長い間、ウィリアムからは何の連絡もない。そこに不安を感じないわけではないが、自分は一般人なんだから、身分が違うからと、心の奥底にある気持ちを抑え込んでいた。何事も起こっていなければいいが。ひと針ひと針丁寧に仕上げていく彼女の想いが、刺繍に輝きを乗せていく。これが完成するころには、元気な姿を見られるだろうか。そんな気持ちで仕上げた刺繍だったが、ウィリアムからの連絡は途絶えたままだった。時折引き出しから箱を取り出して、そっと髪飾りを眺めてみる。きれいな箱の中で薄紙に包まれた髪飾りは、ずっと見つめていられるほど素敵なデザインだった。だけど、次に会える日までは、自分の髪に飾ることはしないと決めている。ウィリアムがどんな気持ちでこれを送ってくれたのか、知りたい気持ちと、知って傷つくのが怖いと感じる自分がいる。みっともない。貧相だ。面白みがない。そんな言葉を掛けられ続けたジュディスは、妙な気を起こして肩透かしを食らうのが怖いのだ。
根気よく作り上げられた刺繍絵はとうとう完成した。微かな願いもむなしく、ウィリアムから直接手紙が届くことはなかった。作業が終わってふと窓の外を見上げると、月が煌々と輝いていた。出来上がった刺繍絵を握り締め、ベランダに出たジュディスは、思わず祈りを捧げる。―どうか、ウィリアム様がご無事でありますようにーと。すると、辺りがふわっと明るくなった様に思って、慌てて目を開けると、自分の体から光が溢れ、そのまま刺繍絵へと流れ込んでいった。目を見張って驚いていたジュディスだったが、神のご加護が得られたならよかったと、刺繍絵をフレームに収めて完成させた。その図柄は、以前二人で出かけた公園に咲いていたネモフィラだ。早速クレアに見せにいくと、じっとその刺繍絵を見つめていたクレアは大きく頷いて合格を言い渡した。刺繍爵をもつ祖母に認められるとは思っていなかったジュディスは小躍りして喜んでいたが、クレアの表情は複雑だった。その刺繍絵に込められた膨大な魔力に驚愕していたのだ。
読んでくださってありがとうございます。
よろしければ、ブックマーク、評価、感想など頂けると嬉しいです。




